最終章 《決戦の前に》

――各自が準備を進める中、ナイはイリアの元に訪れていた。イリアは魔導大砲を森の中に設置し、発射する準備を行う。彼女の傍にはモモとヒナの姿も有り、ビャクとプルリンも傍に控える。



「二人とも本当にいいの?ここに残ると危険だよ?」

「もう、心配しなくてもいいってば!!私達だってテンさんに小さい頃から鍛えられてるんだよ?」

「そうよ、ナイ君。私達の心配なんて無用よ……それよりもナイ君の方こそ大丈夫なの?」

「うん……まあ、何とかなるよ」

「ウォンッ……」



二人が今回の作戦に参加する事はナイも聞いていたが、やはり不安な気持ちは隠せなかった。モモもヒナも信頼しているが、本来ならば無理に戦う必要はない。


しかし、飛行船が今回の作戦に使用される以上は二人とも地上に降りるしかなく、ダイダラボッチとの戦闘になれば地上の何処に避難したとしても安全な場所など存在しない。ダイダラボッチがどのような行動を取るのか分からない以上、案外他の人間と行動を共にしていた方が安全なのかもしれない。



「御二人の事は私に任せてください。それよりも魔導大砲の設置を急いでくださいよ、1発限りの大勝負ですからね……外す事は許されませんよ」

「ぷるぷるっ(いざという時は僕が砲弾になる)」

「ウォンッ!?(マジで!?)」



プルリンを頭に乗せた状態でイリアは魔導大砲を森の中に設置し、ダイダラボッチに見つからないように偽装を行う。イリアとモモとヒナはこの場に残ってダイダラボッチを待ち構え、ダイダラボッチが所定の場所まで移動した際、魔導大砲で攻撃を仕掛けるのが彼女達の役目だった。



「ビャク、いざという時はお前が皆を連れて逃げるんだぞ」

「ウォンッ!!」

「ナイ君……気を付けてね。もしもナイ君が死んじゃったら……私、未亡人になっちゃう」

「まだ結婚してないでしょうが……」



モモの言葉にヒナは呆れるが、ナイはそんな彼女を見て苦笑いを浮かべながらも抱きしめる。そして皆の前にも関わらずに抱き寄せながら口づけを行う。



「大丈夫だよ、必ず生きて戻ってくるから……んっ」

「んんぅっ……」

「ちょ、ちょっと!?ナイ君!?いえ、ナイさん!?(←思わず敬語)」

「ほほう、大胆ですね……」

「ウォンッ(きゃっ)」

「ぷるぷるっ(初心やな)」



二人の行動にヒナは両手で顔を塞ぎ、イリアは興味深そうに覗き込み、ビャクは恥ずかしそうに顔を反らす。プルリンはそんな皆の様子を見つめながら空を見上げる。


既に夕方を迎えており、あと少しでダイダラボッチが目覚める時間帯だった。もう既に準備は整っており、ナイは事前に取り決めた作戦通りに飛行船に戻る事にした。



「よし……行ってくるよ」

「うん……気を付けてね」

「ナイ君……アルト王子の事をお願い」

「まあ、死なないようにお互いに頑張りましょう」

「ウォンッ!!」

「ぷるぷるっ」



ビャクが自分の背中に乗るようにナイに促し、時間はまだあるので彼がナイを飛行船に運ぶ余裕はある。ナイはビャクの好意に甘えて彼の背中に乗り込み、3人(+1匹)と別れを告げて駆け出す。



「皆!!必ず生きて会おうね!!」

「ナイ君も気を付けてね〜!!」

「ウォオオンッ!!」



ナイを乗せたビャクは飛行船に向けて一直線に駆け出し、その様子を他の者は心配そうに見送る。アルトに聞かされた作戦はナイとアルトの身を危険に晒し、仮に成功したとしても二人とも無事では済まない。



「本当に大丈夫なのかしら……」

「あの二人を信じましょう。大丈夫、ああ見えてもアルト王子もいざという時は役に立つ……と思いたい所です」

「願望!?」

「だ、大丈夫かな〜……」

「ぷるぷる(賽は投げられたぜ)」



イリアの言葉にモモ達は不安を煽られるが、もう後戻りはできない。あと1時間もしないうちにダイダラボッチは地上に出現するのは間違いなく、全員が最後の準備に取り掛かっていた――






――ビャクに飛行船まで案内してもらうと、ナイは急いで飛行船の甲板に移動して他の者と合流を行う。飛行船に乗り込むのはナイ、アルト、それとハマーンの弟子の鍛冶師達であり、噴射機の方にも人の姿があった。


王国の飛行船は風属性の魔石で船体を風の力で浮上させ、火竜の経験石を踏査した噴射機で火属性の魔力を放出させて移動を行う。今回の場合はこの噴射機が要となり、飛行船の巨体を生かしてダイダラボッチを倒す算段をアルトは考える。



「よし、後はここで待つだけか……」



ナイは船内に移動せず、船首の近くにて彼は待機する。本来飛行船が動く間は乗員は船内に戻って待機するのが常識だが、ナイの場合は甲板から離れずに船首にて待機する。もう間もなく、ヨウの予知夢が現実に成ろうとしている事を彼は知る由もない――







※カタナヅキ「ここまで長かったな……(;´・ω・)」←ヨウの予知夢の話からこんなに物語が長くなるのは想定外でした。

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