最終章 《それぞれの覚悟と気持ち》

――同時刻、聖女騎士団の女騎士達はテンに呼び出されて甲板に集まっていた。呼び出された理由は誰も知らず、こんな時にどうして呼び出したのかと不思議に思う。そんな彼女達の前に現れたテンは素朴な疑問を問いかける。



「あんた達に聞きたいことがある……あたしの事をどう思う?」

『はあっ?』



テンの質問に聖女騎士団の女騎士達は呆気に取られ、こんな時に何の話をしているのかと呆れてしまう。しかし、テンも別にふざけて彼女達を呼び出したわけではなく、真面目に悩んだ末に彼女達を呼び出して問い質す。



「いいから答えな、あたしの事をどう思っているのか正直にいいな。別に怒ったりはしないよ」

「鬼婆だと思ってる!!」

「こらっ!!何てことを言うんだい!!」

「あいたっ!?お、怒らないっていったのに……」

『あはははっ!!』



ルナの生意気な言葉を聞いてテンは彼女の頭を小突くと、それを見ていた他の者は笑い声をあげた。ルナを皮切りに他の者たちもテンに対してどのような気持ちを抱いていたのかを告げる。



「信頼できる友人、ですかね」

「生涯の友だ」

「憧れの団長っす!!」

「尊敬しています!!」

「素晴らしい筋肉だと思います!!」

「あ、ああ……最後のはよく分からないけど、あんたらがあたしの事をどう思っているのかよく分かったよ」



テンは次々と自分の気持ちを伝えてくる女騎士達に苦笑いを浮かべ、彼女は外の光景を眺める。もう既に時刻は夕方を迎えようとしており、そろそろ出発しなければならない。


今日までテンは聖女騎士団の団長として役目を果たしてきたつもりだが、それでも彼女は心の中で不安を抱いていた。自分は本当に聖女騎士団の団長に相応しいのか、実は他の者たちは自分の事を団長として認めていないのではないか、などと考えてしまう。



(あたしは王妃様じゃない……あの人のように上手くやれる自信もない)



王妃ジャンヌが健在の時は聖女騎士団に所属する女騎士達は彼女のために命を賭け、彼女の事を誰よりも信頼し、そして尊敬していた。しかし、テンは自分が王妃のように慕われる事など有り得ないと思っていた。



(王妃様、あたしは王妃様のようになれないけどさ……でも、王妃様だってあたしにはなれませんよね)



いくら憧れを抱こうとジャンヌのようになれない事はテンも理解していた。だが、逆に言えばジャンヌだってテンのような人間になる事はできない。彼女はジャンヌとは違うやり方で聖女騎士団を纏め、最後まで戦い抜く覚悟を抱く。



「あんた達、悪いがあたしはあんた達の命を背負う覚悟も自信もない……だからこういい直すよ、あたしと一緒に死んでくれるかい!?」

「嫌だ!!」

「死ぬのはお断りです!!」

「皆で勝って生きて帰る……これが答えだ!!」

「その通りだよ!!やっぱり、あんたらとは気が合うね!!」



最高の答えを返してくれた女騎士達にテンは笑みを浮かべ、彼女は吹っ切れた気がした。もうジャンヌの後を追いかけるような真似は止め、彼女は最後の時までこの最高の女騎士達と共に戦い抜く覚悟を抱く――






――同時刻、他の王国騎士団も似たような問答をしており、銀狼騎士団も黒狼騎士団も猛虎騎士団も集まって団長と副団長と最後の話し合いを行う。



「例え、どんなに強大な敵であろうと……最後まで諦めずに戦え!!」

「私達は誇り高き王国騎士、敗北など許されませんわ!!」

「王子が命を賭けて戦うのだ!!ならば配下である我々も命を賭けろ!!」

『うおおおおっ!!』



王国騎士達が集まって気合の雄叫びを上げる中、冒険者達も集まっていた。彼等は王国騎士と違って本来ならば命まで賭けて戦う必要はない。しかし、相手は和国を滅ぼした伝説の巨人であり、全員が力を合わせなければ決して勝てない。



「おい、お前等……今更怖気づいているんじゃないだろうな?」

『ふははっ!!面白い冗談だな!!』

『私は割とびびってる』

「僕もちょっと……でも、頑張るよ!!だって頑張る事しかできないもん!!」



黄金冒険者を筆頭に他の冒険者達も覚悟を決め、最後の戦いのために各自行動を開始する。そして飛行船内でも覚悟を決めた人物が残っていた――






――船内の方ではアルトが操縦席に座り込み、彼の周囲にはハマーンの弟子達が乗り込んでいた。飛行船を動かすためにはアルトだけではなく、彼等の協力も必要不可欠なためにアルトは申し訳なく思う。



「すまないね、君達も巻き込んでしまって……」

「へっ……俺達も一応は親方の弟子だからな」

「兄弟弟子の頼みとあったら断れませんぜ」



この飛行船は最悪の場合、される可能性もある。そうなれば飛行船に残る者達は命を危険に晒されるが、それでも彼等はここを離れるつもりはない。


既に時刻は夕方を迎え、まもなくダイダラボッチが姿を現す。もしも作戦通りにダイダラボッチが巨大剣まで移動した場合、速やかに飛行船を作動させて準備を行わなければならない。



「さあ……最後の決戦だ!!」

『おうっ!!』



アルトの言葉に鍛冶師達は頷き、飛行船を動かす準備を行う。

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