最終章 《炎華と氷華の使い手》
――アルトの考えた作戦を他の者に伝えた所、大勢の人間が驚愕した。特にロランは彼の話を聞かされた時点で反対し、そんな作戦を実行すればアルトの命が危うい。
「いけません!!王子、考え直してください!!」
「駄目だ、この作戦が確実なんだ。それに討伐隊の指揮は任せていると言っても、僕は仮にも王族だ。最終決定権は僕にあるはずだ」
「王子……!!」
「この作戦を遂行するためには飛行船を運転できる僕以外にはあり得ない……大丈夫だ、僕も死ぬつもりはない。ちゃんと考えているよ」
「しかし、ならば我々も王子の傍に……」
「君達に僕の代わりに飛行船を運転できるのかい?残念だが、君達では足手まといだ」
飛行船の修復は既に完了し、そして飛行船をこの世で運転できる人物はアルトしかいない。アルトの考えた作戦は飛行船を利用してダイダラボッチを追い詰める内容だった。
ロランはアルトを危険な目に遭わせる事に反対したが、アルトも覚悟を抱いてここへ来たことを告げる。アルト以外に飛行船を運転できる人間がいない以上、彼は自分がやり遂げるべきだと伝える。
「今まで僕は碌に役に立たなかったからね。せめて最後ぐらいは手伝わせてくれ」
「何を言っておられるのですか!!アルト王子のお陰で我々はここまで……」
「大丈夫、僕だって死ぬつもりはない。だが、もしもの場合は……ダイダラボッチだけは道連れにするさ」
「王子!!」
「ロラン、これは王子としての命令だ。君は王族に逆らうつもりか?」
「それは……」
アルトの言葉にロランは言い返す事はできず、黙って彼の前に跪く。前にも似たような経験があり、あの時はロランは父親であるシン宰相と共にこの国に反旗を翻すか、あるいは王族に忠誠を誓う大将軍として任を全うするべきか悩んでいた。
ロランが王族を裏切らずにこの国を守るために父親と対峙する切っ掛けを作ったのはアルトだった。ロランはアルトの事を今までは軽視していたが、それでも命を賭けて自分を止めに来た時点で彼の中に「王の器」を感じ取る。
(もしもバッシュ王子やリノ王女よりも早く生まれていれば……)
アルトの中に人の上に立つ王としての器を感じ取ったロランはアルトの決意を感じ取り、もう自分では止める事はできないと感じ取った――
――同時刻、飛行船の倉庫には意外な組み合わせの二人が立っていた。その正体は冒険者の「ガロ」と白狼騎士団団長を務める「ヒイロ」だった。二人はこうして一緒に行動するのは初めての事であり、彼と彼女の前には木箱が置かれていた。
「ま、まさか本当にあるなんて……」
「やっぱりな……この船に乗った時から違和感を感じていたんだ」
二人の前に存在するのは「氷華」と「炎華」が入った木箱であり、この二つの魔剣は王都で保管されていると思われたが、実は飛行船の中で保管されていた。どうしてこの二つの魔剣が飛行船内に収められていたのかと言うと、これはマホの指示である。
マホは倒れる前に氷華と炎華に関しては王都で封じるのではなく、万が一の場合に備えて飛行船の倉庫に隠しておくようにエルマに指示を出す。前に氷華と炎華の新しい継承者を選別しようとした時、誰もが二つの魔剣に選ばれる事はなかった。
しかし、かつて氷華と炎華を一度だけ使った人間が船の中に二人存在した。それはマホの弟子のガロと、火竜との戦闘で一時的に炎華を手にしたヒイロだった。二人はかつて魔剣に触れた影響か、この二つの魔剣の存在を感じ取り、この場所に至る。
「氷華と炎華がここにあるなんて……どうして黙っていたんでしょうか」
「さあな……あんたは知ってたのか?」
「……大分前にな」
ガロは振り返るとそこにはシノビが立っており、実は二人に氷華と炎華の存在を教えたのはシノビだった。どうして彼が二つの魔剣の所在を知っていたのかと言うと、実は飛行船に乗り込んだ時に彼は船内を調べて魔剣の居場所を特定していた。
シノビがこの二人に魔剣を教えたのは二人の様子を察し、魔剣の存在に薄々と気づいている事を見抜く。かつてシノビはマホと会った時、彼女からある任務と伝言を託されていた。
『シノビよ、儂はもう長くはない。だからお主に頼みたい事がある、この儂の代わりに氷華と炎華の新しい主を探してくれぬか?』
『何故、そんな事を俺に……』
『お主なら何となくだが任せられると思ってな……強いて言うのならば儂の直感じゃ』
マホは珍しく魔導士らしからぬ物言いでシノビに後の事を託し、そしてシノビは旅の間に他の人間の観察を行い、炎華と氷華の存在に気付いている人間を探す。マホの直感は正しく、普通の人間よりも観察力に優れているシノビは遂に氷華と炎華の存在に勘付いた二人を発見する。
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