最終章 《ナイの覚悟、アルトの決意》
「あれは……ナイ君か?あんなところで何をしてるんだ?」
船首に立っている人物を見てアルトは不思議に思い、すぐに彼は飛行船の甲板に移動してナイの元へ近づく。何故かナイはぼんやりとした表情で飛行船の船首に立ち、そんな彼にアルトは不思議に思いながらも声をかける。
「ナイ君」
「うわぁっ!?」
「わっ!?」
急に声を掛けられたナイは驚いてしまい、危うく船首から転び落ちそうになった。慌ててアルトは手を伸ばすが、ナイは優れたバランス力でどうにか体勢を持ち直す。
「おっとっと……あ、危なかった」
「だ、大丈夫かい?」
「うん、心配かけてごめん……というか、アルトだったんだ」
ナイは声をかけた人物がアルトだと知って苦笑いを浮かべ、船首から甲板の方へ移動した。ナイがこんな場所で仕事をさぼっている事にアルトは珍しく思い、どうして彼がここにいるのかを尋ねる。
「ナイ君、どうしてここにいるんだい?ロラン大将軍から準備は整えるように言われてるんだろう?」
「うん、そうなんだけどね……なんでか知らないけど、急に外の景色が気になってね」
「景色を?」
アルトはナイの言葉を聞いて外の景色を眺め、言われてみれば綺麗な眺めだと気付く。これまで色々とあり過ぎてゆっくりと景色を眺める暇もなく、二人はしばらくは外の景色を眺めていた。
ダイダラボッチの一件がなければ湖に浮かぶ飛行船からの景色は綺麗で悪くはなく、心が安らぐ事ができた。先ほどまでアルトが感じていた不安感も払拭され、ナイも心が落ち着いた様子だった。
「何でか知らないけど、あの場所にいると心が落ち着くんだ。あの場所が一番綺麗な景色が見える気がする」
「だから船首の上に移動していたのかい?まあ、ナイ君なら落ちる事はないだろうけど……」
「うん……何でか知らないけどあそこが一番落ち着く」
ナイは暇さえあれば飛行船の船首から外の景色を眺めてしまい、自分でも不思議だった。アルトはナイの言葉に不思議に思い、飛行船から外の景色を眺めたいのであれば他にもいくらでもいい場所がある気がするのだが、本人が気に入っているのならば敢えて何も言わない。
――もしもイチノに居るヨウがこの場に居た場合、ナイが飛行船の船首に立つ事に落ち着きを感じる理由を彼女は察した可能性が高い。ヨウの予知夢では後にナイは飛行船の船首から強大な存在と対峙する事を彼女は知っており、そしてナイ自身も無意識にヨウの予知夢通りに自分の人生で最大の敵と対峙する時が近い事を本能的に察していた。
船首から甲板に移動したナイは背中の旋斧と岩砕剣に触れ、二つの魔剣も何か感じ取っているのか僅かに震えているように感じた。既に時刻は夕方に迫っており、もう間もなくすれば国を亡ぼす巨人が活動を開始する。
今の所は日中の間はダイダラボッチは姿を現す様子はないが、何時の日かダイダラボッチが太陽の光を克服する時が訪れる。その時が訪れる前にダイダラボッチを始末しなければ王国に――否、世界に未来はない。
「ナイ君、あの化物に勝てる自信はあるかい?」
「ないよ……でも、戦う」
「……君はよく戦った。ここで逃げても誰も文句は言わないよ」
「それでも戦う。だって、逃げたら僕が僕自身を許さないよ」
アルトの言葉にナイはきっぱりと言い返し、そんな彼の返事を聞いてアルトは苦笑いを浮かべる。ナイがこんな状況で逃げ出す人物ではない事は分かっていたが、それでも彼の覚悟を確かめておきたかった。
「ダイダラボッチを倒すためには僕達も命を賭けて戦わないといけない。ここで負ければこの国は亡ぶ……僕はそう思っているよ」
「……そうかもしれないね」
「ナイ君、僕も覚悟が決まったよ。どんな物も犠牲にしてでも奴は倒さなければならない……僕の馬鹿げた考えを聞いてくれるかい?」
「えっ?」
思いがけないアルトの言葉にナイは驚いて振り返ると、そこにはいつものお気楽な彼ではなく、この国の王子として国の未来を守るために決意した漢の顔を浮かべたアルトが立っていた。
「――この飛行船を犠牲にして奴を倒す」
アルトの言葉にナイは目を見開き、そんな彼にアルトは自分の考えた「最後の作戦」を伝えた――
※投稿が遅れて申し訳ございません。今日は12時まで1時間ごとに投稿します。
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