最終章 《復活の理由》

「なるほど、そんな事が起きていたのか……」

「つまり、アンの奴はもう死んでいるのかい……まあ、あんな状態じゃ死体も見つからないだろうね」

「牙竜は地割れに落ちたまま消えちゃったんだ……その地割れもダイダラボッチが引き起こしたのかな?」



ナイから話を聞いた者達は戦闘の際中に発生した地震が偶然なのか、あるいはダイダラボッチが引き起こしたのか、そして牙竜はどうなったのか気になって話し合いを行う。


まずは最初の問題は地震が自然に発生したのかどうかであり、この答えはアンの反応から察するにダイダラボッチの仕業である可能性が高いとナイは告げる。



「地震が起きる前にアンの様子がおかしかった。地中にいるダイダラボッチの力が強まったみたいな事を言っていたし、きっとダイダラボッチのせいで自信が起きたんだと思う」

「という事はナイさんが戦っている時には既にダイダラボッチは復活していたという事でしょうか?」

「いや、それは分からない。巨大剣で魔力を奪われていると言っても、魔力切れの状態でも身体を僅かに動かす事はできるはずだ」

「それぐらいはまあ、できるだろうね……」



魔力が完全に切れたとしても意識を失うまでは肉体を僅かに動かす事はできる。ダイダラボッチの巨体ならば地中の中でも僅かに身動きしただけで地震のような振動が起きてもおかしくはない。


それにアルトが気になったのは地震が発生した際、地割れが牙竜を飲み込んだ事だった。牙竜が落ちた先はダイダラボッチが封じられている場所で間違いなく、その後に牙竜の姿は目撃されていない。



「牙竜が地割れに落ちた事が気になるな……ナイ君、地割れに落ちた後に牙竜の姿は見ていないのかい?」

「うん、大穴からはダイダラボッチしか出てこなかったよ」

「という事は牙竜はダイダラボッチと遭遇した事になる。その後に牙竜の姿を確認した者はいないはずだから……既にダイダラボッチに殺されている可能性もあるな」

「確かにその可能性はあるね、いくら牙竜といってもあんなデカブツが相手だと勝ち目はないからね」



ダイダラボッチが封じられている地の底に牙竜が落下し、その後に姿を見せなくなったという事はダイダラボッチが牙竜を始末した可能性は十分にある。しかし、アルトが気になったのは牙竜が落下した後に取った行動だった。



「……これはあくまでも僕の予想に過ぎないが、もしかしたらダイダラボッチが復活した原因は牙竜のせいだと思う」

「牙竜が!?」

「ど、どうして牙竜のせいなの!?」

「落ち着いて聞いてくれ……これはあくまでも僕の予測だ。だが、僕はこの予測が間違っているとは思えない」




――アルトの推理ではダイダラボッチが復活した理由は牙竜が地割れに飲み込まれ、ダイダラボッチが封じられている地の底に落ちた。その時は牙竜は巨大剣に触れた可能性高い。


実はナイの旋斧を調べる時、旋斧の場合は魔力を吸収する時は一定の量しか吸い込めない事が判明した。旋斧は一度に吸収できる魔力には限りがあり、吸収できない程の魔力を送り込まれると吸収に失敗する。


巨大剣も旋斧と同じ魔剣ならば仮に牙竜が巨大剣に触れていた場合、巨大剣はダイダラボッチと牙竜の魔力を同時に吸い上げようとする。この時に牙竜から吸い上げた魔力分だけダイダラボッチの負担が減った場合、ダイダラボッチは身体を動かす事ができた可能性は十分にあった。




「僕の仮説は牙竜が落下した時、運悪く巨大剣の真上だったんだ。巨大剣の上に落ちた牙竜は魔力を吸い上げられ、それによって巨大剣はダイダラボッチに吸い上げるはずの魔力を減らしてしまった。その隙を逃さずにダイダラボッチは身体を動かして巨大剣を引き抜いたんだ」

「そ、そんな事があり得るのかい?」

「有り得る、というよりもそうとしか考えられない。牙竜は竜種の中でも生命力に満ち溢れた存在だ。普通の生物なら死ぬような傷でも生き抜く事もあると言われている……この仮説が正しければダイダラボッチが復活した原因と、牙竜が姿を見せなくなった原因が証明できる」



ダイダラボッチが復活したのは牙竜のせいであり、そして肝心の牙竜はダイダラボッチが封印から解かれた時に殺された。だから今の所が牙竜の目撃例も何処かに逃げ去った痕跡も見つからず、既に死亡している可能性が高い。


アルトの仮説を聞かされた者達は彼の推理を否定する証拠がなく、勿論彼の仮説が正しいという証拠はないが、状況的に考えてもアルトの仮説が間違っているとは思えなかった。

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