最終章 《旋斧と巨大剣》

「アルト王子、いい加減に全部説明しな!!どうしてナイの旋斧とこの馬鹿みたいにでかい剣が同じ能力を持っているんだい!?」

「それは僕にも分からないよ。だけど、ナイ君の旋斧は伝説の鍛冶師フクツが作り出した剣だ。そしてフクツは元々は和国の子孫だと聞いた事がある」

「フクツ!?それはもしや聖剣を修復させる事に成功したあの伝説の鍛冶師ですの!?」

「噂には聞いていたが、やはりのナイの魔剣の制作者はあのフクツだったのか……」



フクツの名前を出すとドリスとリンも反応し、武人の間ではフクツという名前は伝説の鍛冶師として今の時代にも名前が伝わっている。フクツは大昔に存在した鍛冶師だが、アルトが調べたところによると彼の先祖は和国で代々鍛冶師の家系だった。


和国がダイダラボッチに滅ぼされた後、彼の先祖は王国に移り住んだ。子孫は全員鍛冶師であり、フクツも幼少期の時から両親に鍛冶師になるように育てられた。そして彼の元にある剣士が訪れる。


フクツの元に訪れた剣士は自分の力が強すぎるせいでいつも武器を壊してしまう事を相談し、彼に「絶対に壊れない剣」の制作を依頼した。その願い通りにフクツは武器を製作し、彼は「旋斧」と「岩砕剣」を作り出す。



「ナイ君の持っている旋斧は所有者の聖属性の魔力を吸い上げ、刃を修復する機能が搭載されていた。だから刃が欠けても魔力を吸い上げる事で自己修復機能のお陰で刃が壊れる事はなかった」

「普通の剣ならナイの馬鹿力に耐え切れずにすぐに折れるだろうからね……」

「だが、フクツは旋斧を作った事を後に後悔したそうだよ。彼が造り上げたのは所詮は「壊れても再生する剣」でしかないからね。依頼人が求めた「絶対に壊れない剣」とは違うと思ったんだろうね」

「壊れない剣と、壊れても直る剣……確かに似ているようで全然違いますわね」



旋斧を渡してからしばらくした後にフクツは依頼人に旋斧を渡した事を後悔し、反省した彼はその後に非常に頑強な「岩砕剣」を作り出す。この岩砕剣は旋斧よりも遥かに硬度と耐久性に優れており、依頼人の求めた「絶対に壊れない剣」に非常に近い代物だった。


しかし、フクツが旋斧を渡した依頼人は既に死亡している事が判明し、結局は岩砕剣を渡す事はできなかった。フクツは自分の客の要望通りの武器を渡す事ができず、それ以来に彼は魔剣の制作を辞めてしまう。フクツは弟子も子供も作らず、彼の代で一族は終わりを迎えたと語られている。



「僕はこれまでフクツが魔力を吸い上げる魔剣を自分で造り出したと考えていた。しかし、それがもしも誤りだとしたらどうだろう?もしかしたらフクツは先祖代々伝わる技術を利用し、旋斧を作り上げた場合は話が変わるじゃないか?」

「ど、どういう意味だい?」

「つまり……僕が言いたいのはこの巨大剣を作り上げたのはフクツの先祖の誰かじゃないかという事さ。そしてこの剣は元々はこれほど大きくはなく、それこそナイ君の旋斧と同じぐらいの大きさじゃなかったんじゃないのかな」

「何だって!?」



アルトの言葉に誰もが驚愕し、彼は巨大剣を見つめながら自分の仮説を告げる。彼の考えではこの目の前の「巨大剣」とナイの「旋斧」は同じ種類の魔剣だと彼は考えていた。



「和国が滅ぼされた後、ダイダラボッチは姿を消した。実際の所は分からないが、ダイダラボッチを封じたのは当時の和国の人間じゃないかと思っている。そしてダイダラボッチを封じるために利用されたのがこの巨大剣だ」

「先ほどのアルト王子の話によると、この巨大剣はナイさんの持っている魔剣と同じ力を持っているんですの?」

「その通りだ。間違いなく、ナイ君の旋斧と同じようにこの巨大剣は触れるだけ生物の魔力を吸い上げる機能が搭載されている。しかもナイ君の旋斧と同じように膨大な聖属性の魔力を吸い上げると刃が巨大化し、より強靭にする」

「そういえばナイの旋斧も強敵と戦う度にでかくなっていったね……」



アルトの説明を聞いてテンは最初にあった頃のナイが所有していた旋斧を思い出す。この時の旋斧は大剣と呼べるほどの大きさではなく、せいぜい変わった刃の形をした長剣だった。


だが、旋斧が明確に外見が変わり始めたのはグマグ火山に生息していた「火竜」との戦闘直後からだった。火竜との戦闘でナイは旋斧を火竜に叩き付けた際、旋斧は火竜の魔力を吸い上げて大剣へと変化を果たした。その後もナイが強敵を倒す度に旋斧の外見は少しずつ変化してきたように思える。



「恐らく、この巨大剣は元々はナイ君の持っている旋斧と同じように普通の人間が扱える程度の大きさだったはずだ。だが、何百年もダイダラボッチの魔力を吸い続けた事で巨大化し、ここまで大きくなったんだろう」

「それは……」

「有り得ない、とは言い切れないだろう?ここにいる皆もナイ君の旋斧を知っているはずだ」



アルトの言葉に他の者たちは言い返せず、確かに彼の推測が正しければ色々と辻褄は合う。ダイダラボッチがこの剣を武器として使わない理由や破壊できない理由はダイダラボッチの魔力を吸い上げる事が原因だった。

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