最終章 《巨大剣の秘密》
「これはまた、凄い光景だね……こんな森の中に生き物の姿が全く見えないよ」
「魔物や動物どころか、虫すらも1匹も見当たりませんわ……」
「それほど奴が恐ろしいという事か……」
調査隊に選抜されたのは聖女騎士団からはテンと数名の騎士が同行し、他にはドリスとリンの姿もあった。案内役としてシノビも同行し、他には数名の冒険者も参加する。
ダイダラボッチが復活した影響でムサシノ地方を住処としていた生き物たちは逃げ出してしまったらしく、本来ならば危険地帯であるはずの森も今では安全地帯と化していた。
「この様子なら護衛なんて必要なかったかもしれないね……」
「油断は禁物だ。地中に潜む魔物なら残っている可能性もある」
「それってサンドワームとかかい?あいつら、きしょいからあたしは苦手なんだけどね……」
「私もあの巨大ミミズは嫌いっす……」
「こ、怖い事を言うな!!」
サンドワームとは外見は超巨大なミミズの魔物で女性の間では最も嫌われている魔物として有名だった。一流の武人であるテンもリンもサンドワームは苦手としており、あのルナでさえもサンドワームを見かけたら失神してしまう程である。
「安心しろ、この森にサンドワームは生息していない……それよりも見えてきたぞ、あそこだ」
「あれがそうなのかい?」
「改めてみると途轍もない大きさですわね……ダイダラボッチの背丈ぐらいはありますわ」
「気のせいかな、前に見かけた時よりも大きくなっているように思えないかい?」
巨大剣を視界に捉えた調査隊は改めてその大きさに圧倒され、巨大剣はダイダラボッチの背丈ほどの大きさが存在し、これほど巨大な剣は誰も見た事がない。
ナイの旋斧や岩砕剣の何百倍もの大きさを誇り、最早武器というよりは建造物と表現した方がいいかもしれない。実際に地面に突き刺して立っていると巨大な塔にも見えなくはないため、改めて調査隊はその巨大さに唖然とした。
「はあっ……こいつは凄いね、冗談抜きで天まで届きそうなデカさだね」
「い、いったい誰がこんな巨大な剣を作り出したのでしょうか」
「巨人族の鍛冶師が数百人集まってもこんな物は造れないだろう……」
「ふむ……」
巨大剣を前にした調査隊は誰が何の目的でこんな物を作り出したのかと思うが、アルトは巨大剣の前に移動して緊張した様子で掌を伸ばす。
「僕の推測が正しければ……」
「アルト王子!?無暗に触れるのは危険ですわ!!」
「いいから見ていてくれ」
アルトは意を決して巨大剣に掌を触れると、彼は次の瞬間に膝を崩して掌を離してしまう。それを見た他の者たちは慌ててアルトの元に駆けつけ、彼を巨大剣から引き離す。
「アルト王子!?大丈夫なのかい!?」
「うっ……や、やっぱりそういう事だったか」
「ど、どうしたんですの!?」
「僕の想像通りだ……それに触れてみれば分かるよ」
顔色を青くしながらもアルトは笑みを浮かべ、彼は他の者も巨大剣に触れるように促す。アルトの指示に他の者は戸惑うが、テンが代表として巨大剣に近付いて恐る恐る指先を触れると、彼女は痺れた感覚を味わう。
「うっ!?こ、こいつは……」
「どうしました!?」
「何か感じ取ったんですか?」
「……ほんの少し触れただけで力が抜けた」
テンは自分の指先に視線を向け、軽く触っただけで指先の震えが止まらない。ほんの少し触れただけでテンは力が抜けてしまい、先ほどアルトが膝をついたのは彼も力が吸い込まれるように消えたのが原因だと悟る。
指先の震えを抑えながらテンは巨大剣を見上げ、彼女は違和感を感じていた。かつて何処かで今のと似たような感覚を味わった事を思い出し、すぐにテンはアルトに振り返って告げる。
「この感覚、前にも覚えがある……そうだ!!ナイの旋斧だ!!初めてあいつの旋斧に触れた時と同じだよ!!」
「ナイさんの……旋斧?」
「そういう事さ……この巨大剣はナイ君の旋斧と同様、触れた人間から魔力を吸い取る機能があるんだ。ほら、この辺りの植物が枯れているだろう?これもこの巨大剣が近くの植物の生気を吸い取ってるんだ」
アルトの言葉に調査隊は周囲の様子を伺うと、確かに言われるまで気づかなかったが巨大剣の周りに生えている樹木は彼欠けていた。特に巨大剣が突き刺さった場所に生えていた雑草は完全に枯れて萎れており、どうやら巨大剣は周囲の植物から生気を吸い続けているらしい。
ナイの旋斧も元々は所有者の魔力を吸い上げる機能が存在し、この機能のお陰で旋斧は刃が欠けても所有者から吸い上げた魔力で刃を自己修復していた。だが、ナイの旋斧と巨大剣が同じ能力を持っている事にテンはどういうことなのかアルトに問い質す。
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