最終章 《巨大剣の正体》
――翌日の朝、結局は見張り役をしていた者達は徹夜する事になったがダイダラボッチは巣穴に戻るとその日は姿を現す事はなかった。ダイダラボッチの行動は外に飛び出して樹木を餌として食した後、川の水を飲んだ後に巨大剣を攻撃しただけで終わった。
ダイダラボッチの不可解な行動に討伐隊も困惑するが、ひとまずは飛行船に帰還して会議を行う。これまでの情報を整理し、ダイダラボッチの対抗策を練る。
「昨日は結局、何が起きたのかよく分からなかったでござるな……」
「ダイダラボッチが暴れ出さなくて助かったが、奴の目的が分からん」
「だが、これではっきりとした。魔物使いのアンはダイダラボッチを操る事に失敗したようだ」
討伐隊がムサシノ地方へ訪れた理由は魔物使いのアンを捕縛するためだが、その肝心のアンは現在は行方不明であり、そして彼女はダイダラボッチを服従化させる事に失敗したのは間違いなかった。
「アンの奴がダイダラボッチを服従化させる事に失敗した?どうして言い切れるんだい?」
「昨夜のダイダラボッチの行動、もしもアンがダイダラボッチを服従化させれば奴は我々の飛行船の位置を把握している。ならばダイダラボッチをすぐに向かわせ、攻撃を行っていただろう」
「それもそうでござるな」
「今の所、この船は動かす事はできない。アンもそれを知っているのにダイダラボッチが飛行船に向かわなかったという事は……」
「あの女、ダイダラボッチと契約を交わす事に失敗したわけかい!!それは気分がいいね!!」
仮にダイダラボッチがアンと契約を交わしていた場合、アンが飛行船を放置するはずがない。彼女はこれまでに散々に王国軍と戦っているため、その脅威は把握している。ロランがアンの立場ならば真っ先に王国軍の移動手段である飛行船を襲わないはずがない。
しかし、昨夜のダイダラボッチの行動は餌を食べた事と巨大剣を攻撃しただけで巣穴に引き返した。恐らくは目覚めたばかりでダイダラボッチも本調子ではなく、昨日は餌を食べて数百年分の栄養補給を行っただけに過ぎない。そして気になる点は巨大剣に攻撃を仕掛けた事だった。
『しかし、奴は何故そのばかでかい剣を壊そうとしたのだ?あの馬鹿でかい剣は奴の武器ではないのか?』
「いや……俺は見ていないが、確かあの巨大な剣はダイダラボッチの背中に突き刺さっていたと聞いている」
「それは間違いないよ。あたし達はこの目ではっきりと見たからね」
ロランの言葉にテンは頷き、他の者たちも何人かが賛同するように頷く。ダイダラボッチが攻撃を仕掛けた巨大剣はかつてダイダラボッチの背中に突き刺さっていた物で間違いない。
巨大剣はダイダラボッチの背中に突き刺さっていた理由は未だに判明していないが、一つだけはっきりとしている事はダイダラボッチは巨大剣の事を破壊したいほどに忌まわしく思っていた。恐らくはダイダラボッチが数百年も眠りについていたのは巨大剣が関わっており、ロランはすぐさまにダイダラボッチが地面に突き刺した巨大剣の事を調べる事にした。
「あの剣を調べればダイダラボッチを封じる手がかりが分かるかもしれん……すぐに調査するべきだ」
「それなら僕に任せてくれないかい?」
「なに、アルト王子が……?」
「ああ、僕もあの剣の事は気になっていたんだ」
巨大剣の調査を申し出たアルトに他の者たちは不思議に思い、昨日までの彼はドゴンの改造に夢中だったはずだが、巨大剣を調べたいと言い出した事にテンは口を挟む。
「アルト王子、ドゴンの改造とやらはもう済んだのかい?」
「いいや、まだまだやる事は山積みさ。だけど、ドゴンの改造に必要な
「部品の開発……飛行船の修理に集中して欲しいのですが」
「大丈夫、飛行船の修理の合間に僕の部品も作って貰っているだけさ。それに聖女騎士団や白狼騎士団が代わりに修理を手伝ってくれているよ」
「あたしら、別に大工じゃないんだけどね……」
アルトの言葉にロランは眉をしかめるが、アルトとしてもドゴンの改造は重要な事なのでどうしてもハマーンの弟子達の協力は必要不可欠だった。それに巨大剣を調べたいというのは嘘ではなく、アルトの推察では巨大剣を調べればダイダラボッチを封じる手段を見つかるかもしれないと思っていた。
「ともかく、一刻も早くその巨大剣を調べに行こう。呑気に話している暇はないだろう?」
「……仕方ない、では準備が整い次第に出発するぞ」
ロランは各自準備を整えるように注意すると、巨大剣の調査のために各王国騎士団の中から人員が選抜され、シノビも同行する事が決まった。
飛行船の警備のためにある程度の戦力は残さねばならないが、今のムサシノ地方には討伐隊に襲い掛かる魔物はいない可能性があった。昨夜からダイダラボッチの咆哮を聞いた魔物や動物はムサシノ地方から逃げ出してしまい、調査隊が森に出向いた時点では既に森の中に生き物の気配は感じられなかった。
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