最終章 《巨人と巨大剣》

――太陽が完全に沈んだ途端、大穴の底に潜んでいたは動き出した。岩壁を登り、遂には地上に上半身が出現すると、ダイダラボッチは空を見上げて自分を照らす太陽が消えた事を察する。


夜を迎えて太陽の光が遮られた事でダイダラボッチの行動を妨げる存在は消え去り、ダイダラボッチは大穴から抜け出すと咆哮を放つ。




――ギァアアアアアアアアアッ!!




その咆哮を耳にした周辺地域の動物や魔物達は恐れを為して逃げ出し、まるで大地震が起きる前兆のように生き物は逃げ回る姿は正にダイダラボッチが「災害」の象徴である事を表していた。


数百年の時を費やして復活を果たしたダイダラボッチは山から下りると、森の中を歩き回る。ダイダラボッチが動く度に木々が倒れ、地上の生物は逃げ惑う。その様子を観察していた王国軍は緊張を抱く。



「……遂に出てきやがった」

「化物め……!!」

「あれがダイダラボッチ……国滅ぼしの巨人」



ダイダラボッチから数キロほど離れた位置からロラン達は様子を観察し、ダイダラボッチの行動を予測して移動を行う。ダイダラボッチを尾行するためにシノビはクロに乗り込み、クノはコクに乗って後を追う。そしてロランの場合は双紅刃を利用し、重力を生かして移動する。


ロランは双紅刃を回転させた状態で地面に叩き付け、その際に発生する衝撃波を利用して移動を行う。この移動手段はロランの身体に負担は掛かるが、その分に移動速度は速い。シノビとクノは忍犬たちを乗りこなして後を追う。



「ダイダラボッチが飛行船に向かう場合、すぐに合図を送れ。奴を何としてもこの地に留めなければならん」

『了解!!』



ロランの言葉にシノビとクノは一旦別れ、ロランは大樹の枝の上に移動してダイダラボッチの様子を伺う。ダイダラボッチは山を下りると、自分が破壊した木々を拾い上げて口元に放り込む。



「ギアアッ……」



ダイダラボッチは自分が破壊した樹木を次々と口の中に放り込み、よく噛み砕いて飲み込んでいた。ゴブリンは雑食性で動物の肉以外にも色々と食べるが、ダイダラボッチの場合は樹木すらも栄養分として取り込めるらしい。



(奴は数百年眠っていたはず……その間に失われた栄養分を取り戻そうとしているのか?)



意外にも食事に夢中でダイダラボッチは樹木を食べ続け、そこからしばらくの間は動く気配はなかった。ダイダラボッチが動かないのはロラン達にとっても都合はいいのだが、決して警戒心は緩めない。


しばらくの間は食事を堪能していたダイダラボッチだったが、やがて味に飽きたのか樹木を食べるのを止めて立ち上がる。周囲を見渡した後、ダイダラボッチは森の中に流れている川を発見して水を救い上げて飲み込む。



「ギアッ……」



水を手で掬う行為だけで川がかき乱され、大きな窪みが出来上がって水が別方向に流れ込む。その光景を見てロランは改めてダイダラボッチの身体の巨大さを思い知り、ダイダラボッチの何気ない行動で地形が簡単に変化する。



(……まさに怪物か)



ダイダラボッチは最早「魔物」の領域を越えた存在と化しており、本音を言えばロランもこんな巨大生物を自分達でどうにかできるとは思えない。しかし、弱気になる自分の心を叱咤して彼は改めて様子を伺う。


水を飲んで喉を潤したダイダラボッチは周囲を振り返り、そして少し前に自分が投げ飛ばした巨大剣を発見した。ダイダラボッチは眉をしかめ、巨大剣の元に近付く。



(武器を回収するつもりか?いや、様子がおかしいな……)



巨大剣の元に移動したダイダラボッチは右足を上げ、地面に横たわっている巨大剣の刃の腹の部分を踏みつける。しかも一度や二度ではなく、何度も踏みつけた。



「ギアアアアアッ!!」



怒りの咆哮をあげながらダイダラボッチは巨大剣を踏みつけ、何度も叩き付けて破壊しようとした。しかし、いくら巨大剣を踏みつけても壊れる様子はなく、逆に攻撃を加えていたダイダラボッチの方が付かれ始める。



「ギアッ……!?」



何十回も踏みつけた後、ダイダラボッチは頭を抑えて膝を突き、忌々しげに巨大剣を見下ろす。そして何を思ったのか、巨大剣に手を伸ばして勢いよく持ち上げると、地面に叩き込む。



「ギアアッ!!」



巨大剣を地面に突き刺したダイダラボッチは満足したのか、その場を離れて自分が出てきた大穴の方へと戻る。そしてダイダラボッチは再び大穴の中に潜り込むと、その日の晩は姿を現す事はなかった――

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