最終章 《ダイダラボッチの弱点》
「なるほどな……あのデカブツの弱点は太陽か。まるで御伽噺の吸血鬼みたいだな」
「いや、太陽が弱点というよりは太陽の光に慣れていないといった方がいいだろう。今の所は奴は太陽を直に浴びる事を嫌がっているが、時が経過して太陽の光に慣れ始めれば日中でも活動を行うかもしれん」
「つまり、いずれ奴は外の世界に出てくるという事でござるか?」
「仮に太陽の光が弱点だとしても、夜を迎えれば奴は出てくる可能性が高い」
「ならば今夜に奴が現れればロラン大将軍の仮説が証明されるという事か……」
『ふむふむ……つまり、奴を倒す好機は夜という事だな!!』
『話を聞いていた?あんなデカブツ、私達でどうにかできる相手じゃない』
ロランの推測を聞いた者達の中で唯一にゴウカだけはダイダラボッチと戦うつもりだったが、他の者は生憎とダイダラボッチを一目見た時から戦意を失っていた。
この場に集まっているのは王国の武人の中でも超一流揃いだが、流石にダイダラボッチの巨大さを見せつけられては怖気づくのは仕方がない。大将軍のロランでさえもダイダラボッチに勝てる方法は全く思いつかない。
大きさだけならば張り合える土鯨との戦闘でも、巨人国軍の協力や飛行船があったので何とか対処できたが、今回の場合はどちらも期待はできない。
『お前達、何をそんなにしょげている!!アチイ砂漠に現れた土鯨とやらも相当な化物だと聞いているぞ!!』
「土鯨の時とは状況が違うんだよ。あのときは巨人国軍の軍隊も一緒だったし、それに飛行船で攻撃も仕掛けられた。けど、あの化物は土鯨とは全く違う」
「土鯨の場合は砂漠にいたので砂船を利用して動きを拘束する事はできたでござるが、この場所では同じ事はできないでござる。飛行船の方も確か初代の方は戦闘兵器は搭載されていないのでは?」
「その通りだ。新型の方は戦闘に利用できる兵器はいくつかあるが、旧型の方はあくまでも移動専用機だ。それに仮に兵器を搭載していたとしても、あの化物の力を見ただろう?飛行船で近付けば撃ち落とされるぞ」
ロランはダイダラボッチが自分の身の丈はある巨大剣を投げ飛ばした時の事を思い出し、あの時に投げ放たれた巨大剣は数キロ先まで吹っ飛んだ。その事を考えるとダイダラボッチに下手に飛行船で接近すれば投擲物で撃ち落とされる可能性が高い。
「奴を倒すにはせめて新型の飛行船を用意しなければならない……だが、そのためには一旦王都まで戻って整備を行う必要がある」
『何!?ここまで来て引き返すのか!?』
「馬鹿野郎、それ以外に方法なんてあるわけねえだろ!!あんな化物、俺達の手でどうにかなる相手じゃねえ!!」
「マジク魔導士かマホ魔導士がいれば何か手は打てたかもしれないが……」
広域魔法を扱える魔導士がいればダイダラボッチに有効打を与える事はできたかもしれないが、マジクは既に死亡してマホの方も目を覚める様子はない。ここは引き返す以外に方法はないが、それでもダイダラボッチの様子を伺うために見張り役は残さなければならない。
「誰かがここへ残ってダイダラボッチの動向を探る必要がある……シノビ、クノ、悪いがお前達には残ってもらう。この地方の事を詳しいのはお前達だけだからな」
「承知したでござる」
「見張り役ならば我等に任せてくれ」
ロランの言葉にシノビとクノは頷き、二人はこの地方の出身で地理も詳しく、ダイダラボッチの事も他の人間よりは知識がある。なにしろ二人にとっては先祖の故国を滅ぼした仇であり、幼少期からその存在を聞かされていた。
ダイダラボッチの見張り役を残して飛行船は一度王都に帰還し、新型の飛行船の整備を整えてこの地に戻ってダイダラボッチと戦う。それが最善手である事は理解していたが、どれだけの時間が掛かるのか分からないのが大きな不安だった。
(飛行船が王都に帰還している間にダイダラボッチが暴れれば……どれほどの被害が生まれるか想像もできんな)
飛行船がムサシノ地方を離れている間にダイダラボッチが地上に出現し、暴れ回った場合は途轍もない被害が生まれる。もしもダイダラボッチが太陽の光を克服して日中でも動き回れるようになった場合、活動範囲は一気に広まる。
最悪の場合はダイダラボッチが人里まで移動して暴れまわる事であり、この地から最も近いのは「イチノ」だった。イチノはかつてゴブリンキングも襲撃を仕掛けた場所であり、そんな場所にもしもダイダラボッチが訪れれば今度こそイチノは崩壊してしまう。
ロランは飛行船を帰還する前にせめてイチノの住民にダイダラボッチの存在を知らせ、住民を避難させる事ができればと考えているが、この場所からイチノに向かうにしても時間が掛かり過ぎる。既に時刻は夕方を迎えようとしており、もう間もなく夜が訪れる。
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