最終章 《生き埋め》

「これはいったい……」

「ウォンッ!!ウォンッ!!」

「ぷるぷるっ!!」



窪みの中でビャクが必死に地面を掘り、その様子を見たプルリンはロランの足元に移動して必死に何かを伝えようと身体を擦りつけてくる。ロランは2匹の様子を見て只事ではないと察し、他の者達に指示を出す。



「全員、今すぐ地面を掘るぞ!!武器の類は使うな、地力で掘り起こすんだ!!」

『おおっ!?本当にお宝か!?』

「武器は使うなって……素手で掘れってのか?」

「地面を掘る道具があれば好きに使っていい!!だが、魔剣や魔法の類で地面を掘るのだけは止めろ!!」

「クノ、クロとコクを呼べ」

「承知したでござる!!」



ロランの言葉に他の者たちもビャクが掘り起こしている場所に向かい、この時にクノは犬笛を吹いて忍犬を呼び出す。即座に黒狼種のクロとコクが現れ、ビャクと共に地面を掘り始める。


他の者たちも素手で地面を掘り始め、全員が力を合わせて地面を掘る。やがて地面の中から見覚えがある盾が掘り起こされ、それを発見したリーナは顔色を青くした。



「こ、これ……」

「まさか、坊主の盾か!?」

「という事は地面の中にいるのは……早く掘り起こすんだ!!」



地面の中から反魔の盾が出現すると、慌てて全員が盾が出てきた場所を中心に掘り始める。そして反魔の盾を装備していたナイが地面の中から現れ、彼の姿を見て全員が息を飲む。



「そ、そんな……!?」

「おい、生きてるのか!?」

『酷い……死んでいるのか?』

「縁起でもない事を言わないでほしいでござる!!」

「仙薬を飲ませろ!!それとありったけの回復薬を身体にかけるんだ!!」



発見されたナイの身体は酷く損傷しており、即座に彼の装備を引き剥がして治療を行う。仙薬を口の中にねじ込んで無理やりに噛ませて飲み込ませ、身体中に回復薬を振りかける。


追いかけてきた者達の中で回復魔法を扱える人間はおらず、全員が手持ちの薬をナイに分け与える事しかできなかった。それでも回復薬の効果があるのは生きた人間だけであり、仮に彼が死んでいたのならばいくら薬を与えても傷が治る事はない。



「ナイ君、しっかりして……ナイ君!!」

「リーナ、落ち着け……」

「傷の具合はどうでござる?」

「……治り始めている。どうやら生きてはいるようだ」

「だが、重傷である事に変わりはない」



幸いにもナイの怪我は治り始めた事から彼が生きている事は証明された。しかし、いったい何が起きたのか彼はこれまでにないほどの大怪我を負い、生きているのが奇跡だった。




――この場所はダイダラボッチが目覚めた場所の近くであり、ナイが地面に埋もれていた場所は最初から大きな窪みがあった。この窪みはダイダラボッチが自分の背中から引き抜いた巨大剣を叩き付けた際に発生した窪みであり、ナイはダイダラボッチの攻撃を受けながらも奇跡的に生き延びた。


どうして彼が生き延びたのかはロラン達には分からないが、その理由は「反魔の盾」だった。ダイダラボッチが攻撃を仕掛けた際にナイは偶然にも反魔の盾で防いでいた事で即死を免れた。それでも凄まじい衝撃に耐え切れずに身体が地面の中に埋もれ、地中の中に閉じ込められた。


彼が生き延びた理由はナイ自身が高い生命力を誇り、意識は失っていたが仮死状態に陥っていた事で奇跡的に生き延びた。そして彼は他の仲間達に救い出されるが、ナイの傍にいたはずのアンの姿はなかった。恐らく彼女も地中に埋まっているはずだが、強靭な肉体を持つナイならばともかく、アンではダイダラボッチの攻撃を受けて無事では済まない。


アンは地中に埋もれて死んだ可能性が高く、仮に生き延びていたとしても地中から脱出はできない。ビャクとプルリンがナイの存在に気付いたのは嗅覚と感知能力のお陰だが、この2匹は感じ取ったのはナイだけなのでアンはもう死んでいる可能性が高い――





ロラン達はナイを救出すると、ダイダラボッチが再び現れる前に下山する事にした。ちなみにナイの装備は全て回収する事を忘れず、彼が意識を失っている間は他の者が預かる事にした。


下山の際はビャクがナイを背中に乗せてリーナが一緒に乗って彼の身体を支える。シノビとクノは呼び出したクロとコクに乗り込んで先に帰還し、他の者たちに状況を説明する。そしてロラン達はダイダラボッチを放置する事はできず、山の近くに待機して様子を伺う事にした。


地上に出現したはずのダイダラボッチがどうして再び地中に逃げたのかは分からないが、ロランはその原因は「太陽」が関わっているのではないかと考えていた。ダイダラボッチは長年の間、日の光の当たらない場所で過ごしていたせいで太陽を浴びておらず、それが原因なのか太陽の光と熱を浴びた時に嫌がっているように見えた。その事を彼は他の者たちに話すと、全員が彼の意見に納得する。

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