最終章 《太陽と巨大剣》

――ダイダラボッチが復活した光景は森の中を移動する討伐隊も確認した。かつてイチノを襲撃したゴブリンキングをも遥かに上回る巨人の出現は森からでも確認できた。



『なっ、何だあれはぁあああっ!?』

「ば、馬鹿な……」

「まさかあれは……ダイダラボッチか!?」

「そんな馬鹿なっ!?」

「グルルルッ……!!」



ナイの残した目印を頼りに既に討伐隊は山の近くまで移動しており、ビャクとも合流していた。彼等がビャクと合流したのはつい先ほどの事でロランはナイのマントを握りしめていた。


マントには彼の血文字でアンの目的が「ダイダラボッチの復活」の可能性がある事が記され、ロランは直にダイダラボッチを見た事はないので半信半疑だったが、山から姿を現したを見てナイの言う通りにダイダラボッチが復活した事を悟る。



(信じられん、なんという大きさだ……!!)



ダイダラボッチの大きさはアチイ砂漠で倒した土鯨と同程度は存在し、しかも土鯨と違う点はダイダラボッチは人型である事だった。ダイダラボッチの手には背中に突き刺さっていたはずの巨大な剣が握りしめられ、それを見たロランはあの剣がダイダラボッチの武器なのかと思った。


しかし、地中から姿を現したダイダラボッチは剣を振りかざすと、勢いよく放り込む。投げ放たれた「巨大剣」はロラン達が立っている場所の上空を通り過ぎ、地上の樹木を何本も巻き込んで派手な土煙を巻き上げる。



(武器を手放した!?何故だ!?)



自ら手にしていた巨大剣を投げ飛ばしたダイダラボッチの行動にロランは戸惑うが、当のダイダラボッチは顔面を両手で抑え込み、眩しそうに太陽を見上げて呻き声をあげた。




――ウギィイイイッ!?




太陽の光を嫌がるようにダイダラボッチは身体を縮め、自分が抜け出した大穴の中に引っ込んでしまう。ロラン達からの位置ではダイダラボッチがまるで山の中に吸い込まれるように消えた様に見えたが、彼等はダイダラボッチの姿を見て呆然とする。



「な、何だ今のは……夢か?」

「現実だとは信じたくはない気持ちは分かるが……どうやら、奴が蘇ったようだ」

「あ、あれが拙者達の先祖の故国を滅ぼした伝説の巨人……ダイダラボッチでござるか」



シノビとクノはダイダラボッチが動く姿を見て恐怖と困惑が入り混じった表情を浮かべる。二人にとってはダイダラボッチは自分達の先祖から国を奪った憎き仇なのだが、実際に動いてる姿を見るとあまりの巨大さに圧倒されて怒りの感情も抱けない。


ロランもこれまでに数々の大型の魔物を見てきた事はあるが、ダイダラボッチのような人型で巨大な魔物は見た事がない。しかも「建造物」と」見間違うほどの巨大な剣を数キロも離れた場所に投げ飛ばす膂力を誇り、その力はイチノを襲撃したゴブリンキングとは比べ物にならない。


この場にはダイダラボッチがまだ地中に埋まっている時に姿を確認した人間もいるが、実際に動いている姿を見せつけられると言葉を上手く話す事ができない。それほどまでにダイダラボッチは規格外の存在であり、その存在感は竜種をも上回る。



『むうっ……流石の俺もあんな化物を見るのは初めてだな。全く勝てる気がせん、はっはっはっ!!』

『何で笑えるんだ……私は今にも漏らしそうだ』

「我慢しろ……はあっ、土鯨を見た時以上の衝撃だな」

「こ、怖いとかを通り過ぎて……何が起きたのか訳が分からないよ」



魔物退治を専門とする冒険者の中でも最上位の黄金級冒険者達でさえも、ダイダラボッチを見ただけで全員が愕然とするしかなかった。中には腰を抜かした者もいるが、すぐにリーナはダイダラボッチがいる山に登ったナイの事を思い出す。



「そ、そうだ!!ナイ君は……ナイ君は無事なの!?」

「ウォンッ!!」

「あ、おい!!ワンコロ、どうした!?」

「ナイの元へ向かうつもりかもしれん!!すぐに追いかけるぞ!!」



ビャクはリーナの言葉を聞いてはっとした表情を浮かべ、即座にナイの元へ戻るために駆け出す。その後に他の者たちも続き、相当な危険は伴うが彼等はダイダラボッチが姿を隠した山へ向かう――






――討伐隊がダイダラボッチが出現した大穴に辿り着いたのはそれから1時間後であり、先にゴブリンキングの軍勢の要塞跡地に辿り着いていたビャクは必死に地面を掘っていた。



「クゥ〜ンッ……」

「ぷるぷるっ!!」

「ビャク君!!良かった、やっと見つけた……あれ、プルリンちゃんも一緒だったの?」

「そういえば見かけないと思っていたが……こいつ、ちゃっかりワンコロに付いて来てたのか」

『それよりも何をしているのだ?地面を掘って……はっ!?まさかこの下にお宝を発見したのか!?』

「いや……様子がおかしい」



ビャクは討伐隊が到着しても無視して地面を掘る事に集中し、その様子を見てロランは疑問を抱いた。彼はビャクが掘っている場所を確認すると、彼が掘り起こす前からまるで何かが叩き付けられたように地面に窪みができていた。

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