最終章 《国滅ぼしの巨人》

「アン!!ここを離れるぞ、牙竜に命令するんだ!!」

「わ、分かったわよ……早く、この声が聞こえない場所まで連れて行って!!気が狂いそうになるわ!!」

「グギャアアッ……!!」



ナイの言葉にアンは迷わずに従い、彼女は酷く怯えた様子で牙竜に命令を与える。今はこの場を離れる事を優先し、彼女は自分とナイを乗せて牙竜にこの地から離れるように命令しようとした。


しかし、アンが命令を言い渡す前に突如として地震が起きた。激しい振動が山全体に広がり、あまりの揺れの激しさにナイ達は立っていられずに地面に膝をつく。



「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

「グギャアッ!?」



まともに立っていられない程の激しい揺れに全員が体勢を崩し、何が起きているのかとナイは冷や汗を流す。やがてクレーターに亀裂が走り、この時に牙竜の足元まで地面の罅割れが迫り、遂には「地割れ」と化して牙竜は割れ目に飲み込まれそうになる。



「グギャアアアッ!?」

「そ、そんなっ!?」

「くそっ……何が起きてるんだ!?」



地割れに挟まった牙竜を見てアンは動揺し、ナイも何が起きているのか分からないが彼女を抱きかかえて「跳躍」する。地面が揺れているのでまともに動けないが、跳躍の技能を生かしてナイはどうにか移動を行う。


空中に浮かんでいる間は振動の影響を受けないため、何度も跳躍を繰り返す事でナイは要塞から離れようとした。しかし、まるでナイの後を追いかけるように地面の亀裂は広がり始め、それに気づいたナイは嫌な予感を抱く。



(こっちに迫っている!?いったいどうして……まさか、本当にアンの聞こえた声はっ!?)



頭の中に浮かんだ考えをナイは必死に振り払い、逃げる事だけに集中した。その間にも地割れは徐々に広まり、割れ目に挟まっていた牙竜は遂に地割れの中に飲み込まれてしまう。




――グギャアアアアアアアアッ!?




後方から聞こえてくる牙竜の悲鳴をナイは気にしている余裕もなく、跳躍を繰り返して急いで離れようとした。しかし、途中でアンは顔色を真っ青にして悲鳴を上げる。



「く、来る!!近付いてくる……声がどんどん大きくなってる!?」

「落ち着け!!暴れるな、落ちるぞ!?」

「いや、離さないで!!早く逃げて……でないと、が出てくる!!」



ナイの言葉を聞いてアンは半狂乱になって彼にしがみつき、アンの反応を見てナイは嫌な予感が確信へと変化した。この状況下でアンが怯える存在は一つしかなく、やがて地割れの中に飲み込まれた牙竜の悲鳴が再び聞こえてきた。





――アァアアアアッ……!?





地の底から聞こえてきた悲鳴にナイも遂に気になって振り返ってしまい、彼の視界には地面が崩れて「大穴」が誕生すする光景が映し出された。牙竜は大穴の底に落ちてしまい、やがて悲鳴も完全に聞こえなくなった。


大穴が誕生したのを見届けたナイとアンは空中で顔を見合わせ、これから起きるであろう出来事に二人は恐怖の表情を浮かべ、やがて大穴から出現したのは途轍もなくだった。



(あの剣はまさか……!?)



大穴から出現した超巨大な剣を見てナイは絶句し、その剣の光景は彼は見覚えがあった。約2年前にナイは王国軍と共にこの地に訪れた時、大穴の底でダイダラボッチの背中に突き刺さっていた剣だと思い出す。


最初に見た時は剣の形を模した建造物だと思ったが、それは誤りで本物の巨大な剣だと知る。大穴から出現した剣には緑色の血が滲んでおり、そして剣を手にした巨大な腕が出現した。



(なんだ、あの馬鹿でかい腕は……!?)



巨大な剣を握りしめた腕を見てナイは混乱し、かつて自分が倒したゴブリンキングやゴーレムキングを思い出す。大穴から出現した巨大な腕はゴブリンキングやゴーレムキング級の大きさを誇り、腕だけでそれほど大きいのならば身体全体はどれほど大きいのかとナイは戦慄する。


ナイは全速力で駆け出し、いつの間にか振動も収まっていた。その代わりに大穴から出現した巨大な腕は剣を握りしめた状態でナイ達の元へ振り下ろす。



「ひいっ……!?」

「くそぉおおおおっ!?」



自分達に目掛けて巨大な剣が振り下ろされる光景を見てナイとアンは悲鳴を上げ、刃が地面にめり込む。その衝撃は山全体に広がり、剣が振り下ろされた場所は地割れの如く大地が割れてしまい、遂には大穴から巨大な生物が姿を現す。





――ギアアアアアアアッ!!





山どころか周辺地域にまで響き渡る鳴き声が響き渡り、その声はイチノまで届いた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る