最終章 《声》
「牙竜を今すぐに解放しろ!!そうすれば命は助ける!!」
「ば、馬鹿な事を言わないでよ……そいつを解放すれば私が殺されるのよ」
「大丈夫だ、必ず守る!!」
ナイはアンならば牙竜との契約を解放できると思い、今すぐに牙竜を解放するように命じた。契約紋を解除すれば牙竜はアンに従う理由はなく、ダイダラボッチの復活を阻止する事ができる。
しかし、アンは牙竜を解放を拒んで必死にナイから逃げ出そうとした。だが、力の差は歴然でアンの力では到底ナイには及ばない。ナイもこの状況でアンを手放せば牙竜に殺される事を悟り、決して手加減はしない。
「言う事を聞かないならここで斬るぞ!!」
「わ、分かった……言う通りに従うわ」
ナイは「威圧」を行うと彼の迫力にアンは身体を震わせ、牙竜と向き合う。牙竜はアンが捕まっているにも関わらずに動かず、黙って様子を伺う。
(何だ?何かおかしい……)
主人が危機に晒されているにも関わらずに牙竜が動かない事にナイは疑問を抱き、決してアンを手放さないように後ろから抱きしめる形で彼女に命じる。
「まずは牙竜を離れさせ炉……言っておくけど、違う事を口にしたらひどい目に遭うぞ」
「貴方、脅しは下手ね……うっ!?」
「いいから早くしろ!!」
「わ、分かったわよ……下がりなさい」
「グアッ……」
余裕がないナイは軽口を叩くアンの首元を締め付け、彼女は渋々と牙竜に下がるように命令した。牙竜は命令を受けて素直に距離を開くと、それを見たナイは少しだけ安心した。
しかし、喜んでいる場合ではなく、まだアンは牙竜との契約を解除していない。魔物使いがどうやって契約を解除するのかはナイは知らないが、アンが傍にいる限りはナイは襲われる事は有り得ない。
「牙竜の契約を解除する方法は?」
「ま、魔物使いが契約を解除する場合、使役した魔物の契約紋に直に触れる必要があるのよ……後は魔物が死ねば契約は勝手に解除されるわ」
「……嘘じゃないだろうな?」
「本当よ……さあ、どうするの?」
この状況でもアンは余裕を崩さず、自分が牙竜を完全に解放するには直に触れるしかない事を伝えた。そのアンの言葉にナイは唇を噛みしめ、この状況でアンを牙竜に近づけさせるのは危険過ぎた。
牙竜とアンの契約を解除させればダイダラボッチの復活を阻止する事はできる。しかし、そのためにはアンを牙竜に近付けて契約紋を解除させるか、あるいは牙竜を殺さねばならない。当然だが後者の方法は断然に難しく、前者の場合も大きな危険が伴う。
(どうする?このまま他の皆が駆けつけてくれるまでアンを拘束するしかないのか?)
アンを捕まえた状態でナイは討伐隊が追いつくのを待つしかないかと思った時、不意に捕まっているアンが不思議そうな表情を浮かべた。彼女はクレーターに視線を向け、戸惑いの声を上げる。
「えっ……な、何よ?」
「……何の話?」
「い、今……誰かが私に話しかけたわ。嘘じゃない、いったい誰の声よ?」
「何を言って……」
この期に及んでアンが変な事を言い出したのでナイは疑問を抱き、一応は聞き耳を立ててみるが彼女の言う「声」は聞こえはしない。しかし、反応したのはアンだけではなく、距離を置いた牙竜も忙しなく周囲に首を見渡す。
「グギャアアッ……!?」
「ど、どうしたんだ!?」
「あんたには聞こえないの?この声が……下から聞こえてくるのよ」
「下から……?」
ナイは下に視線を向けてもそこには地面しか存在せず、足元には誰もいない。しかし、アンと牙竜の耳には地面の方から声が聞こえているらしく、アンは怯えた表情を浮かべ、牙竜は落ち着かない様子で周囲を何度も見渡す。
「だ、誰よ!!私に話しかけているのは……何処に隠れているのよ!?」
「お、落ち着いて……下から聞こえるって、どういう事?」
「知らないわよ、そんな事……でも、嫌な声よ。おぞましい……聞いているだけで気持ちが悪い!!」
「グギャアアアッ……」
心底気持ちが悪そうにアンは両耳を塞ぎ、声が聞こえないように耳もとを抑える。牙竜の方も先ほどまでの威勢はどうしたのか、怯えた様に身体を震わせていた。
アンと牙竜の様子を見て只事ではないと悟ったナイは地面に視線を向け、嫌な予感を抱く。アンの言葉が正しければ彼女達が聞こえる声は地面の下から聞こえ、そして地中に封じられている存在は一つしかいない。
(――ダイダラボッチ!?)
この山の中にはダイダラボッチが封印されており、もしもアンと牙竜が聞こえる声の主がダイダラボッチだとした場合、ナイは急いでこの場を離れる事にした。
いったい何が起きているのかナイ自身も把握しきれないが、この場所にアンを残すのはまずいと思い、彼女に牙竜に命じてこの場を離れるように指示を出す。
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