最終章 《勝利条件》

(まだだ!!まだ戦える、絶対に諦めるな!!)



自分自身を鼓舞しながらナイは牙竜とアンの様子を伺い、先ほどの攻防で牙竜の右目を封じる事はできた。それでもアンが戦闘に参加した事でもう片方の目を狙うのは難しくなったが、先ほどよりは状況は好転した。


ナイは体勢を整えながらも周囲の物を確認し、利用できそうな物がないのかを探す。その間にアンは牙竜に視線を向け、右目の負傷を見てもうどうしようもない事を悟ると、彼女は忌々しそうにナイを怒鳴りつける。



「何処まで私の邪魔をすれば気が済むのよ!!もういい、全力を出しなさい!!」

「グァアアアアッ!!」

「くっ……」



アンはナイが対抗策を思いつく前に牙竜に襲い掛かるように命じると、牙竜は凄まじい咆哮を放つ。先ほどよりも殺気が増したのを感じ取ったナイは両手の武器を背負い直し、ここは反撃を中断して逃げる事に集中した。



「逃がすな!!殺しなさい!!」

「グギャアッ!!」

「うわっと……当たるか!!」



ナイが逃げようとしている事に気付いたアンは牙竜に指示を出すと、牙竜は即座にナイの後を追いかけて牙を繰り出す。その攻撃に対してナイは跳躍の技能で後方に跳んで回避し、全速力で逃げ回る。


移動速度を上昇させる「脚力強化」「俊足」の技能もナイは習得し、更に現在の彼は強化術で限界まで身体能力を高めている状態だった。しかし、それでも本気となった牙竜の移動速度には及ばず、徐々に距離を詰められていく。



「グアアッ!!」

「くっ……吹き飛べっ!!」



背後から爪を突き立てようとしてきた牙竜に対してナイは反魔の盾を構えると、それを見た牙竜は本能的に危険を感じ取った。もしも牙竜が爪を放っていたら反魔の盾に衝撃を跳ね返され、牙竜の方が逆に吹き飛ぶ。



「グギャッ……!?」

「何を止まっているの!?早く踏み潰しなさい!!」

「……なるほど、知能が高くなったせいでこの盾の恐ろしさも理解したのか」



攻撃を途中で止めた牙竜にアンは怒りを抱くが、ナイは牙竜が攻撃を中断した理由はアンのせいだと判断する。彼女の魔物使いの能力によって牙竜は確かに強くなった。肉体が成長した際、脳の方も発達して知能が高まったのだろう。


それが原因なのか高い知能を得た牙竜は昨日の戦闘で反魔の盾の恐ろしさを知り、不用意に攻撃をすれば自分の方が痛手を負う事を学習していた。それを利用してナイは反魔の盾を生かして戦う。



(ゴマン、力を貸して!!)



反魔の盾を左腕で構えた状態でナイは岩砕剣を引き抜き、盾に目掛けて刃を放つ。その結果、岩砕剣が衝突した瞬間に軽い衝撃波が走り、牙竜へと襲い掛かる。



「喰らえっ!!」

「グギャアッ!?」

「なっ!?このっ……」

「邪魔をするな!!」



衝撃波を受けて牙竜が怯んだのを見てアンはボーガンを構えるが、それに対してナイは刺剣を取り出して彼女に放つ。投げ放たれた刺剣は彼女が手にしていたボーガンに突き刺さり、破壊する事に成功した。



「きゃあっ!?」

「今だっ!!」

「グギャッ!?」



ボーガンを失った事で遠距離攻撃の手段を失ったアンに対し、彼女に向けてナイは駆け出す。それに気づいた牙竜は慌てて主人を守るためにナイの後を追う。


この戦闘の勝利条件は牙竜を倒す事ではなく、アンをどうにかする事こそが最善の手段だった。アンを拘束するか、あるいは彼女を倒せば牙竜は解放される。そうなればダイダラボッチを復活させる手段は失われ、急いでナイはアンの元へ向かう。



(走れ!!今ならこっちが速い!!)



牙竜に追いつかれる前にナイはアンの元へ駆け出し、彼女を倒すかあるいは人質にすれば牙竜は止まる。アンは自分に迫るナイに気付いて顔色を青くするが、彼女は咄嗟に背中に手を伸ばして隠し持っていた小袋を取り出す。



「このっ!!」

「うわっ!?」



アンが隠していたのは毒草を磨り潰した粉末であり、ボーガンの矢に仕込んでいた毒薬の素材でもあった。これを浴びれば普通の人間ならば身体が痺れてしばらくは動けなくなるが、ナイの場合は「毒耐性」の技能のお陰で毒薬の類は効きにくい。



「うおおおおおっ!!」

「な、何で止まらな……あぐぅっ!?」

「グギャッ!?」



粉末を浴びながらもナイは動きを止めず、遂にアンに目掛けて大剣の腹の部分を叩き込む。彼女は衝撃を受けて吹き飛び、それを確認した牙竜は目を見開く。


ナイの一撃を受けてアンは白目を剥いて倒れ込み、主人であるアンが攻撃を受けて倒れたのを見て牙竜は動作を停止した。ナイはその間にアンの元へ向かい、彼女の首元を掴んで無理やりに立たせる。



「降参しろ!!もう終わりだ!!」

「うぐぅっ……!?」

「グゥウウウッ……!!」



アンが捕まったのを見て牙竜は唸り声を上げるが、主人が危険に晒されているにも関わらずに動こうとはしない。ナイは牙竜が止まっている間にアンに話しかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る