最終章 《黒髪》

「ウオオオオッ!!」

「王子!!」

「大丈夫だ……皆は下がっててくれ」



咆哮を放ちながら鎧武者が姿を現すと、アルト以外の者達は武器を握りしめる。しかし、そんな彼女達をアルトは制止すると、全員に姿を隠す様に指示を出す。


洞窟から抜け出した鎧武者は最初に目にしたのはアルトであり、彼の髪の毛を見て一瞬だけ固まる。しばらくの間はお互いに向き合ったまま動かず、アルトは心の中で願う。



(頼む……!!)



アルトの予測では鎧武者が攻撃を仕掛けてきた理由、それはアルト達の中に「黒髪」の人間がいなかったからだ。鎧武者を制作したのは大昔の和国の人間であり、彼等は自分達の子孫のために和国で製作された武具と防具を牙山に封じた時、牙竜の他に守護する存在を作り出した。それこそがアルトの前に立っている「人造ゴーレム」で間違いない。


この推理が正しければ和国の先祖は子孫が訪れた時、人造ゴーレムが子孫を間違っても襲わないように細工を施すはずである。そして和国の人間と他国の人間の異なる点、それは「黒髪」だった。



(シノビ一族は和国の人間の子孫、そしてシノビ君もクノ君も黒髪だった。つまり、和国の血を継ぐ人間は黒髪のはずだ)



自分の髪の毛を黒く染めたアルトは人造ゴーレムに自分が和国の人間の子孫だと思わせるためであり、この時に彼は目を閉じた。和国の人間の子孫は「黒髪」だけではなく、瞳の色も黒色のため、アルトは瞳の色を悟られないように瞼を閉じる。



(頼む!!)



再度心の中でアルトは願いを込めると、人造ゴーレムが自分の元に近付てい来る足音を耳にした。その光景を他の者たちは身を隠しながらも固唾を飲んで見守り、アルトの身体にロープを括り付けたテンとルナは無意識にロープを掴む力を強める。


やがて人造ゴーレムはアルトの前に立つと、その場に跪く。その行為に目を閉じているアルト以外の者達は驚き、人造ゴーレムの瞳の色が失われて両手で大太刀を差し出した状態で停止した。



「オマチ、シテマシタ……」

「……えっ?」



その一言を最後に人造ゴーレムは完全に動かなくなり、異変に気付いたアルトは目を開くと、そこには自分に大太刀を差し出した状態で固まった人造ゴーレムの姿があった――






――アルトの予測通り、牙山を守護していた人造ゴーレムはどうやら黒髪の人間は襲わないように設定されていたらしく、アルトの事を和国の子孫だと思い込むと自動的に機能が停止した。


初めてドゴンを発見した時と同じく、この鎧武者は完全に停止した。なんらかの切っ掛けを与えれば再び動き出す可能性もあるが、その前にアルト達は人造ゴーレムを洞窟の中に運び込み、そして大きな布で全身を覆い込む。



「ふうっ……これで大丈夫なはずだ」

「こいつ、死んじゃったのか?」

「いや、死んではいないさ。だけど、こうして全身を布で包めば光は差さない……もう動く事はないだろう」



人造ゴーレムは暗闇の中で停止していた事から考えると、身体に光が差さない場所では動けない事は間違いない。そうでもなければ洞窟に閉じ込められたときに自力で脱出しているはずであり、こうして布で全身を覆い込めば鎧武者がひとりでに動き出すはずがない。



「アルト王子、黒髪の人間が襲われない事を見抜いたのは流石ですが……どうして我々にその役目を与えなかったのですか」

「すまないね、女性の美しい髪を汚すのはどうかと思ったんだ。それに絵具の量から考えても一番髪が短い僕しか染める事ができなかったんだ」

「王子、髪の毛臭うぞ……すぐに洗った方がいい」

「そ、そうかい?だけど、その前にお宝を回収しようじゃないか」



改めてアルトは洞窟の中に並べられた石像を確認し、石像が身に着けた武器や防具を見て興奮が抑えきれない。彼にとっては宝石よりも価値のある代物ばかりであり、すぐに人手を集めて回収するように命じた。



「よし!!飛行船で暇を持て余している者を全員呼び出してくれ!!今日中にこれらを全部運び出すよ!!」

「全部!?この数を!?」

「そうだ、一つ残さず持って帰るんだ!!ああ、早く実験したい……片っ端から持って帰るんだ!!」

「ええ〜……もう帰って寝たいぞ」



アルトの言葉に他の者たちは疲れた表情を浮かべ、考えてみれば時刻は深夜を迎えていつもならば眠っている時間帯だった。それでも興奮状態のアルトは抑える事はできず、彼は飛行船に残っている人間達も呼び寄せて武器と防具の回収を行わせた――

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