最終章 《鏡の盾と刀》
(今のうちに中に入れるかも……)
アルトはこっそりと岩山の方へ近づき、鎧武者に気付かれる前に岩山の内部にまで続く洞窟の中に入ろうとした。しかし、ここで彼は予想外の光景を確認した。
「何だ、これは……!?」
洞窟の中に入ろうとした瞬間、アルトは信じがたい光景を目にした。洞窟の内側には出入口を塞いでいた鎧武者と瓜二つの姿をした石像が並べられており、その石像達にはそれぞれ武器や防具を身に着けた状態で放置されていた。
魔道具職人を目指すアルトだからこそ、彼は石像が身に着けている武器や防具の類がどれも普通の物ではなく、多少は埃を被って汚れているがどれも一級品の魔剣や魔道具の類だと見抜く。
(す、凄い!!これは凄いぞ……どれもこれも見た事がない物ばかりだ!!)
数多くの魔剣や魔道具の知識を持つアルトだが、岩山の中に隠されていた武器や防具の類はアルトの知識にはない物ばかりだった。それは即ち和国が存在した時代に作り出された代物である事を証明し、ここに封じられた武器や防具は和国が滅びた時に共に歴史の闇の中に埋もれてしまったのだと悟る。
(なんて素晴らしいんだ!!これだけの魔剣や魔道具を作り出す技術は今の時代にはない!!ああ、こんな素晴らしい物を作る国が大昔に滅びたなんて……残念でならない)
アルトは我を忘れて洞窟の中に入り込み、石像が所持している武器や防具を片っ端から調べていく。どれもこれもがアルトも始めて見る代物ばかりであり、彼は外の状況を忘れて調査に熱中する。
(これは鏡かな?いや、この形から察するにただの鏡じゃない。ナイ君の反魔の盾に似ているような……おや!?あそこにあるのはなんだろう!?)
鏡のように光り輝く盾を発見したアルトはそれを持ち上げると、彼は隣に立っている石像には同じく鏡の様に煌めきを放つ日本刀が飾られている事に気付く。
夢中になってアルトは石像が所持している武器や防具に手を伸ばすと、不意に彼は後方に影が差す。アルトは洞窟の中の武器や防具の調査に夢中で気づかないが、外からテンの焦った声が響く。
「アルト王子!!何してんだい、早く逃げなっ!!」
「待ってくれ、今はこれを調べているから……うわっ!?」
「ウオオオオッ!!」
アルトはテンに声を掛けられて振り返ると、そこには彼の目の前に鎧武者が立っていた。鎧武者はアルトに目掛けて既に大太刀を構えており、それを見たアルトは咄嗟に後ろに跳ぶ。
「フンッ!!」
「うわぁあああっ!?」
「アルト王子!!早く逃げてください!!」
鎧武者が振り下ろした刃が地面に叩き付けられ、先ほどと同じく刃が根本近くまで食い込む。どうにかアルトは回避に成功したが、彼は鏡のように煌めく盾と刀を手に持って急いで出口に向けて駆け出す。
「ま、待ってくれ!!話せば分かる!!」
「オアアッ!!」
「早く逃げてください!!命乞いが通じる相手じゃありませんよ!!」
逃げ出したアルトに対して鎧武者は後を追いかけ、必死にアルトは逃げるが自分が手にした武器と防具はちゃっかりと持って帰ろうとする。どれもこれもアルトにとっては初めて見る代物であり、簡単に手放せる代物ではない。
鎧武者は洞窟の中から武器と防具を持ち出したアルトに対して容赦なく大太刀を振り回し、その際に洞窟内の石像をいくつか切断する。自分と同じ形をしていようと鎧武者は構わずに石像を切り裂く。
「ウオオオオッ!!」
「ひいいっ!?誰か助けてくれ!!」
「ミイナ!!」
「仕方ない……アルト王子、これに掴まって」
ヒイロがミイナに声をかけると彼女は面倒そうに如意戦の柄の部分を伸ばし、彼に向けて一直線に柄を伸ばす。それを目にしたアルトは咄嗟に柄にしがみつくと、ミイナは柄を元に戻してアルトを強制的に引き寄せる。
「えいっ」
「うわわっ!?」
「オアッ!?」
アルトが洞窟の外まで引き寄せられると、それを見た鎧武者は後を追いかける。しかし、ここで外で待機していたルナが両手に岩石を持ち上げて駆けつけてきた。
「皆、離れろ!!でりゃあああっ!!」
『うわっ!?』
「オアッ……!?」
ルナは岩石を投げ飛ばすと洞窟の出入口を塞ぎ、鎧武者は洞窟の中に封じ込める。無論、鎧武者が手にしている大太刀を利用すれば簡単に岩石を切断して外へ飛び出してくるはずであり、急いで逃げるように促す。
「よし、今のうちにとんずらするよ!!」
「しかし、武器と防具の回収は!?」
「そんな事を言っている場合じゃない!!殺される前に逃げるよ!!」
「仕方ありませんね……」
「逃げるが勝ち」
「行きましょう!!」
「とんずらだっ!!」
鎧武者が抜け出す前にアルト達は駆け出し、牙山から離れて撤退しようとした。だが、逃げる際中にアルトは一度だけ振り返り、何故か洞窟内に閉じ込められた鎧武者が出てくる様子がない事に気付いて足を止める。
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