最終章 《超振動》

「そうか、そういう事だったのか……どうやら奴の持っている武器は刃が超高速で振動しているんだ。それが原因なのか分からないが、きっとあの馬鹿げた刃の切れ味は奴の持っている武器の能力なんだろう」

「超振動……!?」

「な、なるほど……よく分からないけど、とにかく物凄く切れ味が凄い刃物って事だね?」

「テン……間違ってはいないと思いますが、その説明の仕方は少々子供っぽいですよ」



鎧武者の所持する大太刀の能力が判明し、刃が「超振動」を引き起こす事で切れ味を上昇させている事が判明した。しかし、能力が判明しても状況は変わらず、あの振動する刃を攻略しなければどうしようもできない。


この世界の魔法金属の中でもオリハルコンは最も希少な金属であり、伝説の聖剣の素材として最も多用された金属でもある。つまりは鎧武者の所持する大太刀は伝説の聖剣に匹敵する程の「魔剣」の可能性もあった。



「皆、気を付けるんだ。いくら魔剣や魔斧でもあの武器に触れると壊れてしまうかもしれない。そして知っての通り、壊れた魔剣は修復しても能力が使えなくなる可能性がある」

「くっ……」

「ふ、触れるのも駄目なんですか?」

「さっきのを見ただろう?刃が重なっただけで真っ二つに切れたんだ。あたし達の肉体なら触れただけで終わりだね」

「ウオオオオッ……!!」



鎧武者はテン達に囲まれても全く動じた様子はなく、いつどこから襲われても対処できるように大太刀を構える。あの大太刀に触れずに本体に攻撃を仕掛けるのは難しく、テン達の中で遠距離攻撃を行えるのは暴風で「風の斬撃」を生み出せるリンと、柄の部分を伸ばす事ができる如意斧の所有者のミイナだけだった。



「そ、そうだミイナ!!あの投げ飛ばす斧は持ってきてないんですか!?」

「輪斧なら飛行船においてきた……あったとしても切り裂かれた困る」

「ここは私がどうにかするしかないという事か……来い、化物め!!」

「ウオオオッ!!」



リンが暴風の刃に風の魔力を纏わせると、それに気づいた鎧武者は彼女に攻撃を仕掛けようと近付いてきた。先ほどまでは重量のある岩石の外殻に覆われていた事で動作が鈍かった鎧武者だったが、外殻を外した事で移動速度が格段に増していた。



「オアアッ!!」

「甘いっ!!嵐突き!!」



不用意に接近してきた鎧武者に対してリンは振り下ろされた大太刀を回避すると、彼女は刃に纏わせた風の魔力をのように変化させると、鎧武者の胴体に目掛けて突き刺す。


彼女の「嵐突き」はまともに衝突すれば岩石をも貫く威力を誇るが、鎧武者の本体も相当に頑丈らしく、衝撃を受けて数メートルは吹き飛びながらも踏み止まる。



「ウオオッ……!?」

「ちぃっ……この程度の攻撃は通じないか」

「何て硬さだい……さっき身に着けていた外殻よりも硬いんじゃないのかい?」



リンの魔剣の攻撃を受けても鎧武者には掠り傷すら与えられず、恐らくは迷宮都市を守護していた人造ゴーレムと同じく相当な硬度を誇る。この鎧武者を倒せるとしたらナイやゴウカや剛力の剣士か、あるいは地属性の魔力で攻撃力を強化させるロランのような剣士にしか倒せない。



「こいつっ!!よくもルナの斧を!!」

「馬鹿、不用意に近づくんじゃないよ!!真っ二つにされたいのかい!?」

「ですがどうすれば……」

「何か手はないのでしょうか……」

「皆で一斉に攻撃しても倒せなさそう……」

「ドリスがいれば……いや、何でもない」

「オオオオッ……!!」



この場に集まった者達では対抗手段はなく、このままでは無駄に時間を過ごしてしまう。しかし、アルトはこれまでの鎧武者の行動を思い返し、そして牙山に視線を向けた。



(この人造ゴーレムが和国の人間が作り出した守護者なら……きっと、争わずに封じられた妖刀だけを回収する手段があるはずだ)



アルトは牙のような形をした岩山の中に隠されているはずの妖刀の存在を思い出し、この地に妖刀を封じた和国の人間は子孫が封印を解放する時、守護者に襲われないように何か仕掛けを残しているのではないかと考える。


シノビ一族に伝わる巻物にはこの地に妖刀だけが封じられている事しか描かれていなかったらしいが、実は他にも手がかりがあったのかもしれない。そうでもなければシノビ一族の子孫がこの地に訪れても妖刀を回収しようとしても守護者に邪魔されてしまう。



(何か見落としている事があるはずだ……それは何だ?)



必死にアルトは思考を巡らせ、この時に彼は守護者が離れた事で岩山の出入口が開かれた事に気付く。今ならば守護者を他の者に任せて中に入る事ができるかもしれず、アルトは一か八か慎重に鎧武者に気付かれないように接近する。

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