最終章 《牙山の守護者》

「ちょ、こんなの聞いてないよ!?なんでゴーレムが……」

「驚いている場合ではありません!!アルト王子を守りますよ!!」

「王子、下がって下さい!!はああっ!!」

「あ、ヒイロ!!君の烈火じゃ……」



ヒイロはアルトを守るために劣化を振りかざし、刀身に炎を宿す。それを見たアルトは彼女に声をかけるが、ヒイロは巨大ゴーレムに対して刃を振りかざす。



「ゴルァッ!!」

「うわぁっ!?」

「何やってんだい!!ゴーレム相手に火属性の魔法剣で挑む馬鹿がいるかい!!」



しかし、ヒイロの繰り出した斬撃を受けても巨大ゴーレムはびくともせず、逆に押し返してヒイロを突き飛ばす。それを見たテンは呆れた声を上げるが、そんな彼女の元に向かう人影があった。



「よっと」

「あうっ……ミ、ミイナ!?どうしてここに?」

「心配だったから付いて来た」

「ルナもいるぞ〜!!」



飛行船に待機していたはずのミイナが駆けつけ、吹き飛ばされたヒイロを受け止める。彼女の後ろにはルナの姿もあり、その姿を見てテンは驚く。



「ルナ、あんたまで……」

「暇だからこっちへ来た!!それより、なんだその化物!?」

「説明は後だよ!!ほら、こいつをぶっ飛ばすのに協力しな!!」

「ゴルァアアアアッ!!」



奇怪な鳴き声を上げながら巨大ゴーレムは両腕を広げ、威嚇する様に向き合う。それを見たアルトは疑問を抱き、一方でテン達はゴーレムに向かって仕掛ける。


さきほど岩壁に擬態していた巨大ゴーレムに攻撃を仕掛けた時は、テンの退魔刀やリン暴風による攻撃でも表面を削る程度だった。この事から巨大ゴーレムの硬度はドゴンやブラックゴーレムに匹敵する硬さがあると思われるが、先ほど水筒の水をかけた箇所は泥の様に溶けていた。



(こいつには水が効くみたいだね!!ここに水属性の魔法の使い手がいれば楽だったんだけど……)



テンは巨大ゴーレムの弱点が普通のゴーレムと同じく水であると判断し、手持ちの道具の中から効果のありそうな物を取り出す。彼女は勿体なさそうな表情を浮かべながらも「回復薬」を取り出す。



「おらっ、こいつを喰らいな!!」

「ゴアッ!?」



回復薬の蓋を開くとテンは中身の液体を巨大ゴーレムに振りかけ、それを浴びた巨大ゴーレムは怯んでしまう。液体であれば回復液でも効果があるらしく、振りかけられた箇所が泥のように溶けていく。


それを確認した他の者たちも回復薬を取り出し、少々勿体ないが巨大ゴーレムを倒すためには必要だと判断して中身を振りかける。巨大ゴーレムは周囲から液体を注がれ、嫌がるように後退した。



「ゴァアアアッ……!?」

「よし、効いてるよ!!今の内に攻撃しな!!」

「はああっ!!」

「せやぁっ!!」

「おりゃああっ!!」

「ていっ」



テンの掛け声に合わせて今度はリン、アリシア、ルナ、ミイナの4人が同時に攻撃を仕掛け、あちこちに液体を浴びて身体が解けていた巨大ゴーレムの肉体に刃が突き刺さる。



「ゴガァッ……!?」

「よし、効いてるよ!!」

「何だ、図体はでかいけど普通のゴーレムと同じだな!!」

「油断するな!!こんな簡単に倒せる相手じゃないはずだ!!」



攻撃を受けて怯んだ巨大ゴーレムを見てルナは勝利を確信するが、それに対してアルトは注意を行う。仮にも牙竜の他に妖刀を守るために残された敵であり、まだ他に特殊能力を隠している可能性もあった。


しかし、アルトの警戒心とは裏腹に巨大ゴーレムはマグマゴーレムのように発熱したり、ブラックゴーレムのように熱線を吐き出す様子もない。その代わりに身体を縮こませて身を固める。



「ゴウッ……!!」

「なんだこいつ?亀みたいに丸くなったぞ!!」

「防御のつもりか?」

「ふんっ、いくら身を固めてもあんたの弱点は分かり切ってんだよ!!まだ回復薬を持っている奴はいるかい!?」

「は、はい!!私が持っています!!」



テンの言葉にヒイロは慌てて回復薬を取り出し、それを急いでテンに投げ渡す。彼女はそれを受け取ると、亀のように縮こまって身を固めた巨大ゴーレムに放とうとした。


しかし、巨大ゴーレムは回復薬を浴びる寸前、肉体に亀裂が生じた。そして内側から透明の手のような物が飛び出し、巨大ゴーレムの内部から人型の物体が出現した。



「ゴルルルルッ!!」

「な、何だい!?」

「これは……馬鹿な!?」

「まさか……人造ゴーレム!?」



巨大ゴーレムはまるで卵の殻を割る様に外殻が割れると、中から現れたのは「鎧武者」を想像させる姿をした人造ゴーレムが出現した――

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