最終章 《爆弾制作》
「ア、アルト王子!!ここへいらっしゃったんですね!!」
「ヒイロ?どうしたんだい、そんなに慌てて……君は牙山に向かったんじゃなかったのかい?」
「はあっ、はあっ……実はアルト王子に協力してもらいたい事がありまして……」
牙山で走ってきたヒイロは非常に疲れた様子で事情を説明し、牙山に封じられた妖刀の回収のために急遽爆弾が必要になった事を話す。
話を聞き終えたアルトは考え込み、爆弾を作れといわれても彼は牙山の岩壁を確認していない。爆弾を製作するにしても規模と威力を計算しなければならず、アルトはとりあえずは自分を連れていくように告げる。
「なるほど、そういう事情なら僕が直接出向いた方が良さそうだね。イリア、ここは君に任せるよ」
「はいはい、分かりましたよ。どうせ敵なんて来ないでしょうし……」
「ランファンさんとゴンザレス君は残ってくれ。力仕事も必要だろうし……そういえばルナ君は何処にいるんだい?」
「あのガキならあっちで昼寝してたぞ。なんでも飛行船の中だとゆっくり眠れなかったから、しばらくは起こすなって……」
「自由人だね。それならガロ君、君も付いて来てもらおうか」
「俺も!?」
アルトはヒイロとガロを護衛として連れて行き、他の者には飛行船を任せて牙山へ向かう――
――牙山に辿り着いた頃にはすっかりと日も明けてしまい、結局は討伐隊の殆どは徹夜してしまう。それでもアルト達は辿り着いた牙山の光景を見て眠気が吹き飛び、その異様な風景に流石のアルトも冷や汗を流す。
「な、何だここ……骨だらけじゃねえか!!」
「これは凄いな、話は聞いていたが……」
「ううっ……相変わらず酷い臭いです」
牙の形をした岩山の周囲には無数の骨が散らばっており、酷い死臭が漂っていた。この臭いのせいで牙山の近くには魔物も動物も近寄らず、牙竜以外に住み着く生物はいない。
鼻が利くガロはここへ来たことを後悔するが、彼等が訪れるとすぐにテン達が迎えてくれた。テンはヒイロ以外にガロも居る事に不思議に思うが、大して気にせずにアルトに話しかける。
「アルト王子、急に呼び出して悪かったね」
「いや、別に構わないさ。それで例の岩壁は何処にあるんだい?」
「こっちさ、付いてきな」
テンの案内の元でアルトは妖刀の隠し場所に繋がる岩山の岩壁まで案内してもらうと、顔色が悪いリンと他の王国騎士達が待ち構えていた。
「アルト王子……お待ちしていました」
「リン副団長、あまり無理をしない方がいい。休むのならここから離れた方が……」
「いえ、いつ敵が襲ってくるか分かりません。見張りは必要です」
リンはアンが牙竜を再び引き返してくる事を警戒し、この場から離れようとしない。牙竜の力ならば岩壁を破壊し、中に封じられている妖刀を回収するのも容易い事だった。だからこそ警戒は怠らないが、彼女はアンがムサシノ地方を離れてイチノ地方へ向かおうとしている事を知らない。
アルトは岩壁に視線を向け、確かに他の箇所と比べて色合いが異なり、実際に触れて硬さを確かめる。テンの退魔刀やリンの暴風でさえも表面を少し削り取る事が限界であり、これを破壊するにはナイやロランやゴウカといった剛腕の剣士でも難しいと思われた。
「これを破壊するのはちょっと苦労しそうだね……マグマゴーレムの核を爆発させても壊すのは難しいかもしれない」
「そこまで難しいのですか!?」
「ああ、だけど触れた感じ……何か違和感を感じる。ちょっと、誰か水を持っていないかい?」
「水、ですか?」
思いもよらぬアルトの言葉に他の者たちは戸惑うが、ヒイロがすぐに水筒を用意するとアルトは岩壁に視線を向ける。他の箇所と違う色合い、そして実際に触れて感じた感触、アルトはもしやと思いながらも彼は水筒の水を振りかける。
「皆、離れるんだ!!」
『えっ?』
アルトの言葉に全員がどういう意味なのかと思った時、彼は水筒の水を岩壁に注ぐ。その瞬間、水が振りかけられた箇所が変色し、泥の様に溶けてしまう。その直後、岩壁に人面のような物が現れて鳴き声を放つ。
――ゴルァアアアアアッ!!
奇怪な鳴き声を上げて姿を現したのは岩壁に擬態していた巨大なゴーレムであり、それを見たアルトは慌てて逃げ出す。他の者たちも武器を構え、正体を晒したゴーレムと向き合う。
「な、何だぁっ!?」
「やっぱりそうだったか……皆、こいつはゴーレムだ!!しかもただのロックゴーレムじゃない!!」
「ゴラァアアアアッ!!」
巨大ゴーレムは岩壁から自分の身体を引き剥がすと、改めてアルト達を見下ろす。大きさはゴーレムキングほどではないが、それでもドゴンよりも一回り程大きく、巨人族を上回る体躯だった。
どうやら岩山を守護していたのは牙竜だけではなく、この巨大ゴーレムこそが宝の番人らしい。だが、巨大ゴーレムが引き剥がされた事で岩山に通じる出入口が開き、それを確認したアルトが指示を出す。
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