最終章 《改造開始!!》

「おい……この王子、本当に大丈夫か?変わり者だとは聞いていたけど、ここまでなんて……」

「……大丈夫、だと思いたい」



ガロの質問にアルトの護衛役であるミイナはあからさまに視線をそらして曖昧な返事をする。そんな彼女の行動に増々ガロは不安を抱くが、もうドゴンは炉の中に突っ込む。


最初の過程はブラックゴーレムの熱線を浴びて溶解してしまったドゴンの頭部の修復であり、まずは熱を与えて頭部を溶かしてその後に形を整える。この作業は熟練の鍛冶師でなければ難しく、ハマーンの弟子達が交代しながら作業を行う。



「せいっ、せいっ!!」

「よっ、ほっ!!」

「うりゃりゃりゃっ!!」



様々な掛け声を出しながらハマーンの弟子達がドゴンの頭部を整えるために鉄槌を叩き込むが、流石に伝説の聖剣の素材で使用されているオリハルコンで構成されたドゴンは簡単には直らない。



「はあっ、はあっ……こ、こいつはきつい。こんだけ熱して打ってるのにようやくここまでか」

「王子、王都に戻ったらちゃんと報酬を払ってくださいよ」

「勿論だ、約束するよ……また父上に迷惑を掛けそうだな(ぼそっ)」

「え、王子?今何か言いました?」

「何でもないよ」



どうにかハマーンの弟子達が数人がかりでドゴンの頭部を整えると、次は本格的に改造作業へと入る。改造といっても今回はドゴンの肉体その物に手を加えるのではなく、彼のために新しい装備を取り付ける事にした。


ドゴンの強化のために使用されるのは彼が苦戦を強いられた「ブラックゴーレム」から回収した素材を利用する。アルトは前にナイがグツグ火山で倒して持ち返った素材と、今回の飛行船を襲撃してきたブラックゴーレムの素材を利用して新しい装備を作り出す。



「このブラックゴーレムはドゴンのオリハルコンにも匹敵する硬度を誇る。しかもあらゆる魔法を吸収し、その奪った魔法の効力を宿す事ができる……魔法金属の原材料の鉱石とよく似ている」

「ほう、こいつは面白い素材だな!!」

「親方がいれば喜んだだろうな……」



アルトの説明を聞いて鍛冶師達は目を輝かせてブラックゴーレムの素材を確認するが、この素材に関しては生前のハマーンも興味を抱いていた。



「君達に作ってほしいのはドゴンの外装だ。これらを利用してドゴンの身を守る装備を一式作ってほしい」

「えっ!?なんでそんな物を……」

「王子、ドゴンはオリハルコンで構成されているんですぜ?身を守る装備なんて……」

「無用とは言い切れないだろう。実際にこうしてドゴンは損傷を受けている、確かにオリハルコンは魔法金属の中でも頑丈で耐久力も高いが、決して無敵ではないんだ」



鍛冶師達はドゴンに身を守る装備など必要ないと思うが、アルトはこれから先もブラックゴーレムのような存在と戦う事を考慮し、今よりも防御面を固めるためにドゴンに新しい装備を作る必要がある事を説く。



「まだブラックゴーレムが残っている可能性もある。それにブラックゴーレムの素材で構成された装備なら、魔法攻撃を受けても吸収して防ぐ事ができる。つまり、相手がブラックゴーレムだとしても攻撃を受けても身を守る装備が魔法を吸収してくれるはずだ」

「ちょっと待ってください、ブラックゴーレムが魔法を吸収するのはこの黒水晶ですよ。こいつが魔法を吸収して他の箇所に魔力を伝達させるんです」

「だからその黒水晶を搭載した装備を作ってほしいんだ」

「んなめちゃくちゃな!?王子、この素材がどれだけ価値のある代物か分かってるんですか!?それを勝手に使ってドゴンの外装にするなんて……」

「責任は僕が取る。それにこれが成功すればドゴンはブラックゴーレムの対抗手段を得られる……つまり、今後ブラックゴーレムが現れた場合はドゴンに対処させればいい。新しく倒したブラックゴーレムの素材は君達に渡す事を約束する」

『…………』



鍛冶師達は貴重なブラックゴーレムの素材を利用してドゴンの外装を作り上げる事に苦悩したが、アルトの話を聞いて彼等は思い悩む。鍛冶師としては未知の能力を持つ鉱石を手に入れる機会は滅多になく、アルトの話が本当ならば今後ブラックゴーレムが現れた場合は自分達が素材を独り占めできる。


ブラックゴーレムの素材は鍛冶師にとっては謎に満ち溢れた魅力ある素材であり、それらを利用してドゴンの外装を作り出す事には抵抗感がある。しかし、目先の利益よりも将来の利益を期待して彼等は仕事を引き受ける事にした。



「分かりましたよ!!そこまで言うのなら約束して下さいよ!?」

「よし、それならすぐに取り掛かってくれ!!それと素材が余るようなら武器と防具の製作も頼みたい」

「ええっ!?俺達にどれだけ仕事させるつもりですか!?」

「頼んだよ、もしも王都に戻れたら君達の好きな酒をいくらでも買ってあげよう」

「うううっ……くそっ、やってやらぁっ!!」

『うおおおおっ!!』



アルトの言葉に乗せられて鍛冶師達は全力で作業に取り掛かり、その様子を見ていた他の者たちは本当に大丈夫なのかと思っていると、ここで慌てた様子のヒイロが駆けつけてきた。

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