最終章 《牙山では……》
――同時刻、牙山には銀狼騎士団と聖女騎士団の姿があった。飛行船の警護のために聖女騎士団から訪れたのはテンとアリシアだけであり、他には白狼騎士団からはヒイロも訪れている。ミイナはアルトの手伝いのために飛行船に残り、この場にはいない。
「ここが噂の牙山かい?話には聞いていたけど……凄い所だね」
「こ、これ全部……骨なんですか?」
「信じられんな……いったい、この地でどれだけの生物が喰われた?」
牙山に辿り着いた王国騎士団は想像を絶する光景を目の当たりにする。牙のような形をした岩山の周囲には大量の骨が散らばっており、この地に300年以上も牙竜は暮らし続けた。
300年の間に牙竜はどれだけの数の魔物や動物を捕食したのかは不明だが、牙山の周囲には無数の骨が散らばっており、その中には大型の魔物の骨も含まれた。かなりひどい死臭が漂っており、テンは鼻を抑えながら顔をしかめる。
「本当にこの場所に妖刀が隠されているのかい?」
「そのはずですが……シノビ殿が解き明かした暗号によればこの岩山の中に隠されているそうです」
「岩山の中……何処か出入口があるんですか?」
「待ってくれ、これを読めばわかる」
本来であれば暗号を解き明かしたシノビがこの場所に訪れ、岩山の出入口を示すのが一番なのだが、彼はナイの追跡のために自分が所属する銀狼騎士団の副団長のリンに暗号を解いた際に作り上げた地図を渡す。
シノビがナイの追跡を申し出たのは彼なりにナイに恩義を感じており、シノビが王国と接点を持てたのはナイのお陰でもある。大分前の話になるがシノビが国王と話をする事ができたのはナイの協力があっての事であり、その借りを返すためにシノビは妹のクノと共にナイの行方を追う。そのために彼はリンに地図を渡して牙山の妖刀の確保を代わりに行うように頼む。
「この地図によれば……岩山に入るためには色の違う岩壁を探す必要があるらしい」
「色の違う岩壁?何だいそりゃ……」
「その岩壁の正体は……牙竜だと!?」
「き、牙竜!?どういう事ですか?」
リンの言葉にヒイロは驚愕し、他の者たちも戸惑う。リンは巻物を読みながら牙山に入る方法を確認し、冷や汗を流しながらも侵入方法を話す。
「牙竜は普段、牙山の岩壁に擬態して眠っているそうだ。無駄な体力の消耗を減らすため、牙竜は普段は岩山に張り付いて睡眠をとっているそうだが……その牙竜がへばりつく岩壁が出入口らしい」
「な、何だいそりゃ!?じゃあ、牙竜の奴を倒さなければどっちにしても妖刀は手に入らなかったのかい!?」
「いや、あくまでも牙竜を岩壁に引き剥がせればいいそうです。つまり、誰かが囮役になって牙竜を引き付け、他の者が妖刀の回収を行う……これが正規の手順だそうです」
「そ、そんな……牙竜から逃げるなんて簡単な事じゃありませんよね」
「巻物には十中八九は犠牲は避けられないと書かれていたらしい……」
暗号文を残した先祖も牙山から妖刀を回収する手段の危険性を示し、本来であれば牙山から妖刀を回収する場合は牙竜との接触は避けられなかったらしい。また、牙山に牙竜が住み着いた理由も書かれていた。
「この手紙によると牙山に生息する牙竜は元々は魔物使いが飼育していたらしい」
「魔物使い!?あの牙竜、魔物使いに操られていたのかい!?」
「巻物によれば魔物使いと契約を交わした魔物は不思議な力が宿り、野生で生きていた頃よりも特別な能力に芽生える。牙竜の場合は寿命が延びる効果があるとか……しかも魔物使いが死んだとしてもその効果は消える事はない」
「飛んだ迷惑な話だね!!」
牙山を守り続けた牙竜はかつては魔物使いに使役され、その影響で牙竜は通常の種よりも寿命が延びた。しかも魔物使いの命令で牙山から離れられず、300年もこの地に居続けたのは魔物使いの仕業だと判明する。
尤も牙竜が魔物使いの命令を聞き続けたのは先日までの話であり、現在は新たな主人となったアンの言う事を従って本来の役目を捨てて牙山から離れてしまう。そのせいで現在の牙山を守護する存在はおらず、テン達は堂々と入る事ができた。
「ともかく、その岩山に入る出入口を探せばいいんだね」
「そういう事になります。出入口の目印は牙竜が岩壁に大きな窪みがあるらしく、そこを爆破すれば中に通る道が見つかるとか……」
「爆破ですか!?」
「生半可の威力の爆発では壊れないようにしてあるらしい。ともかく、それらしき岩壁を見かけたら魔剣で攻撃するしかあるまい」
リンの言葉を聞いて王国騎士団は牙山の周囲を移動し、それらしき岩壁を捜索すると、すぐに大きな窪みを発見した。どうやら牙竜が普段張り付いて眠っている岩壁らしく、他の場所と比べて岩壁の色が僅かに違った。
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