最終章 《行先》
「――クゥ〜ンッ」
「うわっ……モモ、くすぐったいよ」
「ウォンッ(誰がモモやねん)」
「って、ビャクか……モモのわけないよね」
ビャクに顔を舐められてナイは目を覚ますと、すぐに身体を起き上げて牙竜とアンの様子を伺う。まだ日は登っておらず、牙竜もアンも休んでいる様子だった。
今ならば不意打ちもできるだろうが、ナイとビャクだけでは牙竜に勝てる保証はない。せめて仲間が他にいれば話は別だが、他の者たちが簡単に追いつく可能性は低い。
(今の所は本当に眠っているのか……僕達に本当に気づいていないのかな)
ナイはアンに視線を向け、彼女が実は自分達に気付いていて敢えて尾行させているのはでないかと考えたが、それならばナイが眠っている間に何らかの行動を移すはずである。
(そういえばアンは他の魔物を従えているのかな?確か、森の中に罠を仕掛けたのはアンの魔物だと言っていたけど……)
討伐隊の合流が遅れたのはアンが事前に森の中に送り込んだ魔獣が罠を仕掛け、そのせいで討伐隊の進行が遅れた。その話を聞いたナイは実は今もアンに服従する魔物が近くにいて潜んでい自分達を監視しているのではないかと思ったが、相変わらず周囲に気配は感じない。
牙竜という存在のせいで森の中にも関わらず、動物、魔物、昆虫すらも牙竜という存在に恐れを為して近付かない。牙竜も自分を襲う存在が居ないと確信しているからこそ熟睡しているのかもしれない。
(今の所、動く様子はないな……こっちも身体を休めておくかな)
仮に眠っている間に牙竜に見つかると厄介な事態に陥るが、ナイ達は見つからないと判断した距離で身体を休めており、仮に見つかったとしても逃げ切れる自信はあった。
ここまでの牙竜の行動を確認してどうやら牙竜は森の中を移動する事は苦手らしく、道中で進行方向に存在する樹木を何本も倒していた。牙竜が樹木を破壊して移動するのは森の中の移動に慣れていない事を意味しており、そもそも牙山は岩山で樹木の類は生えていない。
(森の中ならビャクの方が速く動けるはずだ)
平地ならば牙竜の移動速度に勝る魔獣はいないかもしれないが、障害物の多い森や山の中ならば白狼種のビャクの方が勝る。そう確信したからこそナイは相棒を信じて今のうちに身体を休めておく。
「ビャクも今のうちに眠っておいた方がいいよ。大丈夫、何かあったらすぐに起こすから」
「ウォンッ……」
ナイの言葉にビャクは頷き、彼が眠るまでの間はナイはビャクの傍にいる。ビャクが寝息を立てるとナイは牙竜とアンの様子を伺い、念のために背中の旋斧に手を伸ばす。
(……そういえば旋斧、何か前みたいに戻ってる?)
ハマーンに打ち直された後、ナイは旋斧を利用して魔法剣を使用した時の事を思い出す。彼に打ち直される前の旋斧は魔力を刀身に宿して光り輝いていたのだが、先日の戦闘では魔力に合わせて刃の色が変色するだけで光を纏っていなかった事を思い出す。
どうやらハマーンに打ち直された際に旋斧の魔法剣の効果が若干変化したらしく、昔のように魔力を刃に宿すだけに留まっていた。今の所は特に不便を感じないが、ハマーンが打ち直した際に旋斧に何か細工を仕掛けたのかもしれない。
(ハマーンさんの事だからきっと何か考えがあるんだろうな……)
亡くなったハマーンの事を思い出し、彼が旋斧を打ち直したのは何かわけがあると思ったナイは彼を信じていた。旋斧の能力が変化した事にも何か意味があると思ったナイは気にせずにこれからも旋斧で戦う事にする。
(岩砕剣の方は特に変化はないかな……いや、前よりも少しだけ重くなった?)
旋斧と比べて岩砕剣の方は特に変化らしい変化はないが、心なしか岩砕剣の重量が増加しているように感じられた。岩砕剣にも何らかの細工が施されているかもしれないが、それを伝える前にハマーンは亡くなってしまった。
ハマーンは王国一の鍛冶師であり、ナイもよく世話になっていた。彼が飛行船に乗っていればすぐに修理してくれたかもしれないが、今更そんな事を考えても仕方がない。
(今は見張りに集中するんだ)
頬を叩いてナイは気を取り直すと牙竜とアンの見張りを続行し、どちらも不審な行動を取っていないのか常に注意しておく。しかし、ナイの警戒とは裏腹にどちらも動く様子はなく、結局は何事も起きないまま深夜を迎えようとした――
――時刻が深夜を迎えた頃、ナイの目印を追って他の討伐隊の者達も追跡を行っていた。指揮を執っているのは大将軍のロランであり、黄金冒険者達の姿もあった。
「おい、こっちに目印があったぞ!!」
「こっちも見つけたでござる!!」
「ここもだ」
目印を発見したガオウが声をかけると、彼よりも先に歩いていたクノが声をかけ、更に彼女よりも前に進んでいたシノビが目印を発見した。
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