最終章 《待たせたな!!》
「貴方、本当に面白いわね……あの時に見逃して良かったわ」
「……?」
アンの言葉にナイは意味が分からず、他の者たちも戸惑う。しかし、すぐにアンはナイから目線を外すと牙竜に次の命令を与える。
「だけどもう用済みよ。これ以上、貴方達に付き合っている暇はないわ」
「ちっ……俺達を始末するつもりか!?」
「王国騎士を舐めないでくださいましっ!!」
「刺し違えてでもお前を倒す!!」
「お前達は下がっていろ!!ここは俺がやる!!」
「はあっ、はあっ……」
牙竜を利用して自分達を殺すつもりなのかとナイ達は警戒すると、不意にナイだけは森の方に視線を向ける。そんな彼の行為に気付いたアンは不思議に思って森に振り返ると、遠くの方から物音が聞こえてきた。
最初は何の音だか分からないが、耳を済ませると森の中から大きな生き物が駆けつけるような足音が鳴り響く。最初はボアや赤毛熊の類の魔獣が森の中を駆けまわっているのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。
「何?この足音は……」
「あれは……まさか!?」
『ふはははははっ!!』
『わぁあああっ!?』
森の中から騒がしい笑い声と悲鳴が響き渡り、全員が驚いて振り返るとそこには木々の隙間を潜り抜けて駆け抜けるゴウカと、その背中にしがみつくマリンの姿があった。
「ゴウカさん!?」
『待たせたな!!まだ牙竜は倒していないだろうな!?吾輩の出番は残っているんだろうな!!』
『止まれ馬鹿ぁっ!?』
全力疾走で森を駆け抜けてきたロランは谷に辿り着くと、それを見たアンは呆気に取られた。討伐隊は自分の仕掛けた罠で動けないはずだが、ゴウカとマリンがここへ駆けつけてきた事に動揺する。
「あ、貴方達どうやってここまで!?」
『それはこいつのお陰だ』
「ぷるるんっ」
「プルリン!?」
ゴウカはマリンの背中に張り付いていたプルリンを指差し、二人の傍にプルリンが居る事にナイは驚く。プルリンに手を伸ばしたゴウカは掌で彼を抱えると、ゴウカはここまでの道中で何が起きたのかを話す。
『このスライム小僧のお陰でお前が仕掛けた罠は全て見抜いたぞ!!森中に設置したマグマゴーレムの核は全部回収した!!』
「な、何ですって!?」
「ぷるぷるっ(やってやったぜ)」
『どうやらスライムの感知能力を舐めていたようだな……うっ、吐き気が』
アンがナイ達と話し込んでいた間、後続の部隊はアンのマグマゴーレムの核の位置をプルリンに教えてもらって全ての場所を見抜いて回収を行っていた。スライムの感知能力ならば生物だけではなく、魔石などを感じ取る事も容易い事だった。
森の中に仕掛けられていたマグマゴーレムの核は全てプルリンが見つけ出し、既に処理済みだった。そのお陰で妨害を気にせずにゴウカは谷へ駆けつけ、他の者たちも遅れてやってきた。
「ナイ君、無事!?」
「大丈夫ですか!?」
「副団長!!ご無事ですか!?」
「ウォンッ!!」
ゴウカの他にもリーナ達も駆けつけ、続々と森の中から人が集まってきた。それを見たアンは流石に冷や汗を流し、これで戦力差は逆転した。
「ここまでだ、魔物使い……いや、アンよ。お前に勝ち目はなくなった」
「いくら竜種だろうとよ、これだけの人数に勝てると思ってるのか!?」
『ほう、こいつが牙竜か……久々に本気で戦えそうだ!!』
『うぷっ……気持ち悪い、後は任せたぞ』
「駄目だよマリンさん!!一緒に戦ってよ!?」
「くっ……何という威圧感」
「グギャアッ……!!」
大将軍のロランと黄金級冒険者達が前に出ると流石の牙竜も後退り、これだけの面子に囲まれてはアンも先ほどまでの様に大きな態度を取れない。まさかこんなにも後続の部隊が合流するとは夢にも思わなかった。
プルリンの感知能力を侮っていたのがアンの誤算であり、負傷した状態の牙竜では流石にここに集まった人間全員を始末する事はできない。シノビとクノも訪れると、顔色が悪いナイの元に二人は向かう。
「ナイ殿、大丈夫でござるか!?」
「これを飲め、毒消しの効果がある」
「あ、ありがとうございます……」
ナイはクノに肩を貸して貰い、シノビから受け取った薬を飲む。すると一気に身体が楽になり、動ける程に体力を取り戻す。
「うわっ……凄い、身体が楽になりました」
「シノビ一族に伝わる秘伝の薬だ……奴が牙竜か」
「ううっ……伝承通りに恐ろしい容貌でござる」
「グァアアアアアッ!!」
シノビとクノを目にすると牙竜は興奮した様子で鳴き声を上げ、二人は牙竜を見るのは初めてだが、牙竜は二人のような忍者装束を身に着けた者を何十人、何百人と見てきた。
牙竜が住処としている牙山はかつて数多くのシノビ一族の人間が挑み、そして牙竜に返り討ちにされた。逆に言えば牙竜は何百人ものシノビ一族の人間を殺してきた事を意味しており、再び自分の前に現れたシノビ一族の人間に興奮するのも無理はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます