最終章 《計画の最終段階》

「貴方達には本当に感謝しているわ。正直、この計画は貴方達がいなければ果たせなかった……特に英雄さんのお陰ね」

「舐めやがって……」

「態度には気を付けた方がいいわよ。貴方達がこうして生きていられるのは私がこの子を抑えているからだという事を思い出しなさい」

「グギャアアアアッ!!」



牙竜は咆哮を放ち、その声を聴いただけでロラン達は冷や汗が止まらない。ナイが戦闘不能に陥った今、状況は圧倒的にロラン達の不利だった。


かなりの時間が経過しているが一向に他の討伐隊が到着する予定はなく、どうやらアンの仕掛けた罠に引っかかって足止めを喰らっているらしい。しかし、アンが従えた牙竜もここまでの戦闘で深手を負っており、特に首元の傷は深い。



(奴の首に一撃を叩き込めば勝機はある……!!)



ロランは牙竜の首元の傷に視線を向け、先ほどナイ達の攻撃によって牙竜は首元に深い傷を負った。この傷口を狙えば十分に勝機があり、ロランは双紅刃を無意識に握りしめるが、それに気づいたアンが声をかける。



「警告しておくわ、もしも貴方が動けば私は遠慮なく、その英雄を殺す」

「何だと!?」

「そうはさせませんわ!!」

「ナイに手を出すな!!」

「ぐっ……!!」



アンの言葉を聞いてドリスとリンは前に出ると、ガオウもナイを抱きかかえて逃げる準備を行う。しかし、牙竜を相手に疲弊した3人では守り切れる保証はなく、ロランは双紅刃を下ろす。



(ナイを殺させるわけにはいかん。だが、この女を放置するわけには……)



ロランはどのように行動するべきか迷っていると、不意に彼はガオウが抱えているナイが僅かに動いた気がした。ほんの僅かではあるが彼の頭が動いたように見えたロランは視線を向けると、ナイの口元が動いている事に気付く。


最初は自分に何か伝えたい事があるのかと思ったが、すぐにそれは間違いだと悟る。ロランはナイの口元を見て彼が「仙薬」を飲んでいる事に気付き、薬を飲んで回復を行っている事を知る。



(何時の間に仙薬を飲み込んで……いや、それよりもナイが回復すればまだ戦える)



仙薬を口に含んだナイは徐々に身体が回復し、動けるようになるまでそれほど時間は掛からない。ロランはアンの話を長引かせて彼が回復する時間を稼ごうとした。



「アン、貴様の目的はなんだ!?どうしてお前はここまでして我々に盾突く!?父親を処刑した我々への復讐か?」

「復讐?違うわ、そんな物はどうでもいい。あんな父が殺されようと私には何の関係もないわ」

「ならば何故こんな事を……」

「そうね……強いて言えば下剋上よ」

「げ、下剋上……何を言ってるんだ!?」



アンから意外な言葉が出てきた事にガオウは驚き、他の者たちも訝しむ。そんな彼等の表情を見て当然の反応だと思いながらも、アンは自分の最終目標を語る。



「私の目的は、知っているかしら?この国の歴代の王は全員が男性……だから私はこの国で史上初の女王となる」

「女王だと……」

「な、何を馬鹿な事を!?この国を乗っ取るつもりですの!?」

「馬鹿げた事を言ってるんじゃねえよ!!いくら竜種を従えたからって、お前を王と認める奴がいるはずが……」

「牙竜」

「グギャアアッ!!」



ガオウが言葉を言い終える前にアンは牙竜に指示を出し、命令された牙竜はガオウに目掛けて右前脚を繰り出す。その攻撃に対して咄嗟にドリスとリンとガオウは避けようとしたが、ガオウは自分の両手にナイを抱きかかえている事を忘れていた。



(しまった!?避ければ坊主が……くそっ!!)



ナイを見捨てる事はできず、ガオウは彼だけでも逃がそうとした。しかし、ガオウが行動を移す前に既に牙竜の前脚は迫っており、もう駄目かと思われた時に彼に抱えられていたナイが眼を見開く。


牙竜の振り下ろした右前脚が地面に叩き付けられ、周囲に激しい振動が走る。この時にアンはガオウを始末したかと思ったが、攻撃を仕掛けた牙竜は手応えない事に気付いて訝しむ。



「グギャッ……!?」

「はあっ、はあっ……」

「ぼ、坊主……お前!?」

「あら……やっぱり、生きていたのね」



ガオウを救ったのは彼に抱えられていたナイであり、まだ完全に怪我が治ったわけではないが、牙竜が右前脚を振り下ろす前にナイはガオウの身体を抱えて後ろに跳ぶ。そのお陰でガオウは無傷であり、牙竜の攻撃を二人とも避ける事ができた。



(気付かれたか!!)



ロランは二人が無事であった事を喜ぶが、ナイが生きている事と怪我の治療を行っていた事をアンに知られて顔色を青くする。彼が完全復活するまでまだ時間が掛かり、今の状態ではとても戦う事はできない。


しかし、まだ傷が完治していないナイを見てもアンは牙竜に追撃の命令を与えず、彼女は面白い物を見るようにナイに視線を向けて語る。

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