最終章 《用済み》
「貴様……我々を利用したのか!!その牙竜を従えるため、ずっと我々を監視していたのか!!」
「そういう事ね。流石にうちの子達でも牙竜を動けないまでに痛めつける事ができるか自身はなかった……だから、うちの子達を倒す力を持つ貴方達に協力してもらったの」
「何だと……!!」
アンの目的は牙竜を服従化させるため、彼女は最初の予定ではブラックゴーレムと黒蟷螂を牙竜と戦わせるつもりだった。アンが魔物を服従させるには魔物の身体に直接触れる必要があり、相手を痛めつけて動けない程度の怪我を追わせなければかなり危険な行為だった。
牙竜という強大な力を持つ存在を従えるにはアンも相当な集中力が必要なため、彼女は牙竜を従える前に戦力を整えた。しかし、ブラックゴーレムと黒蟷螂だけでは牙竜に返り討ちにされる可能性が高く、彼女は敢えてこの2体を犠牲にして自分を追ってきた討伐隊を利用する事にした。
討伐隊が自分を追跡してきた事を逆に利用し、彼女は敢えて自分の僕であるブラックゴーレムと黒蟷螂を送り込む。討伐隊の戦力を削る目的もあったが、彼女の真の狙いは討伐隊の戦力を測るために送り込む。
「貴方達の力を見極めさせるために私は敢えてあの2体を送り込んだ。そして結果は最高だったわ。まさかあの2体を相手に犠牲も出さずに勝利するなんて、正直に言って貴方達の事を見くびっていたわ」
「では、飛行船を襲ったのは……」
「飛行船を破壊する事ができれば邪魔な貴方達をこの地に足止めする事もできる。それにあの船には仲間を殺されて必死に私を探している聖女騎士団が居る事は知っていたわ。だから私はレイラとかいう女を殺した僕を送り込んだの」
「貴女、何て事を!!」
「何をそんなに怒っているのかしら?結果的には聖女騎士団は仇を討つのに成功したでしょう」
「よくもぬけぬけと……!!」
レイラを殺害したのは黒蟷螂ではあるが、それを命令したのはアンである。つまり、聖女騎士団にとって真の仇はアンであり、さも自分が悪くないように語るアンに全員が怒りを抱く。
「おい、お前はどうやって俺達の動きを監視していた!?」
「そんなのいくらでも方法はあるわ。白鼠を利用したり、鳥獣型の魔物を従えて見晴らせたり……特にこういう森の中だと私のお仲間になってくれる子はいくらでもいるの」
「くそっ……何で気付かなかったんだ」
「そうそう、コボルト亜種の群れを送り込んだのも私だけど、そこの英雄さんに追い払われたせいで貴方達の力を計る事ができなかったのは残念だったわね。だから飛行船を襲わせて貰ったわ」
アンはムサシノ地方に訪れた時に複数の魔物と契約し、それらを利用してずっとナイ達の行動を見張っていた。今思えばナイ達の前に現れたコボルト亜種も彼女が従えていた魔物であると発覚する。
話し終えたアンはガオウに抱えられているナイに視線を向け、彼女の計画で最も重要な役割を持っていたのはナイだった。彼は討伐隊の中でも実力者であり、もしも自分の目的を果たせるとしたらナイ以外にあり得ないとまで思わされるほどに彼は素晴らしかった。
「英雄さんには色々と働いて貰ったわ。牙竜を従えさせるには邪魔な2体も倒して貰ったし、こうして牙竜を追い詰めたのも英雄さんのお陰よ」
「邪魔な2体だと?どういう意味だ?」
「待て……そういえば聞いた事がある。魔物使いは使役できるのは自分の
「正解よ。いくら私でも、牙竜を従えさせる場合はあの2体も同時に操る事ができない」
魔物使いであるネズミが自分以上の「化物」と称する程の魔物使いの才能を持つアンだが、彼女は牙竜を従えさせる時に黒蟷螂とブラックゴーレムは邪魔な存在だった。
黒蟷螂とブラックゴーレムは野生の魔物の中では竜種には及ばないが高い戦闘力と知能を誇り、この2体を従えさせているせいでアンは魔物使いの力を制限されてしまう。使役する魔物を増やす程に魔物使いは負担が増え、牙竜を服従させるときはどうしても2体の契約を解除しなければならない。
しかし、アンに魔物達が従っているのはあくまでも親愛の関係でなく、魔物使いの能力で無理やりに従えさせているだけに過ぎない。そのせいでアンは牙竜を服従化させるには黒蟷螂とブラックゴーレムを手放さなければならなかった。
――アンにとって一番の問題は黒蟷螂とブラックゴーレムの始末であり、仮に契約を解除すれば2体ともアンに躊躇なく襲い掛かってくる。そうなればアンは自分を守る手段がなく、抵抗する暇もなく殺されるのは目に見えていた。
魔物使いのアンは決して戦闘能力は高くはなく、黒蟷螂にもブラックゴーレムにも勝てない。そこで彼女はナイ達の元に送り込み、邪魔な2体を始末させようと考える。
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