最終章 《追い詰められた獣の恐ろしさ》

「やりましたわね!!この調子なら他の皆さんが到着する前にいけますわ!!」

「ああ……牙竜といっても我々の敵ではない」

「油断するな!!追い詰められた獣ほど恐ろしい存在はいない!!」

「……大将軍の言う通りだな、こいつは腐っても竜種だ。最後まで気を緩まない方がいいぜ」

「はあっ、はあっ……」



ナイとの戦闘とロランの猛攻によって牙竜は重傷を負い、戦況は討伐隊の優位だった。しかし、ロランは決して最後まで気を緩めず、ガオウも彼の意見に賛成する。


牙竜は火竜のように吐息を吐き出す能力はないが、火竜をも上回る生命力を誇る。そして牙竜は遂に本領を発揮し、討伐隊に真の力を解放した。




――グォオオオオオオッ!!




牙竜は目元を充血させ、凄まじい咆哮を放つ。鳴き声が変わった事にナイは驚き、歴戦の猛者であるロランでさえも牙竜の迫力を目の当たりにして無意識に後退る。ドリスもリンもガオウも同様に身体が固まる。



(何だ、この迫力……!?)



最初に遭遇した時もナイは牙竜の威圧感に圧倒されたが、今回の場合は最初に会った時以上に牙竜は存在感を放ち、ナイ達は自分達がまるで大型の肉食獣に遭遇した小動物のような気分を味わう。


威圧感を更に増した牙竜は自分の鳴き声で硬直状態に陥った者に視線を向け、最初に攻撃対象に選んだのはナイを抱えているガオウだった。



「グオオオオッ!!」

「なっ……いかん、避けろ!?」

「うおおっ!?」

「うわぁっ!?」



ナイに肩を貸していたガオウに大して牙竜は右前脚を振り下ろし、恐ろしい怪力で川原の地面に叩き付ける。それだけの行為で大量の土砂が舞い上がり、無数の石礫がナイ達の元へ向かう。


まるで散弾銃のように放たれた石礫二人の身体に襲い掛かる寸前、ナイはどうにか反魔の盾を構えて攻撃を防ぐ。しかし、ガオウの場合は避け切れずに身体のあちこちに石礫が刺さり、彼は地面に倒れ込む。



「ぐああっ!?」

「ガオウさん!?」

「そ、そんなっ!?」

「くっ……このっ!!」



ガオウが倒れたのを見て慌ててリンは反射的に風の斬撃を繰り出すが、その攻撃に対して牙竜は尻尾を振り払い、彼女の風の斬撃を力ずくで掻き消す。



「グアッ!!」

「なっ!?そんな馬鹿なっ……!!」

「取り乱すな!!落ち着け!!」



自分の風の斬撃を尻尾で掻き消した牙竜にリンは焦ったが、ロランは彼女を落ち着かせるために声をかける。しかし、牙竜はリンの動揺を見逃さず、彼女に目掛けて口元を広げて突っ込む。



「グァアアアッ!!」

「何っ!?」

「リンさん、危ない!!」



リンの元に目掛けて突っ込んだ牙竜を見てドリスは真紅を構え、彼女は柄の部分から火属性の魔力を放出させて加速を行う。リンが喰われる前にドリスは彼女の腕を掴み、強制的に引き寄せて駆け出す。


牙竜はリンを噛み付く事には失敗したが、地上に着地すると今度は加速中のドリスの後を追いかけ、リンを連れて駆け出す彼女の後に続く。



「グオオオオッ!!」

「おい、追いかけてくるぞ!?」

「そんなっ!?」

「ちぃいっ!!」



加速中のドリスを上回る程の移動速度で牙竜は追跡し、二人に噛みつくために口元を開く。それを見たロランは見ていられずに双紅刃を振りかざし、二人の頭上を飛び越えて攻撃を仕掛けた。



「ぬんっ!!」

「きゃああっ!?」

「うわっ!?」

「アガァッ!?」



ロランが振り下ろした双紅刃は追跡を行っていた牙竜の牙に叩き付けられ、この際に刃に蓄積されていた魔力が解放して衝撃波を発生させる。


足場のない空中では踏ん張りがきかず、ロランは吹っ飛んでしまったが牙竜も顔面に衝撃波を受けて吹き飛ぶ。しかし、牙竜の場合は地面に爪を喰い込ませて衝撃に抗い、どうにか踏み止まる。



「グゥウウウッ……!!」

「そ、そんな……無傷!?」

「有り得ない……あの一撃を受けて何故平気なんだ!?」



ロランの渾身の一撃が決まったにも関わらず、牙竜は傷一つ負っていなかった。その理由はロランの振り下ろした刃は牙竜の牙に接触し、顔面その物は攻撃を受けずに済んだ。


双紅刃を正面から受けたにも関わらずに牙竜の牙には傷一つなく、罅すらも入っていない。牙竜という名前の由来通り、恐ろしく頑丈で鋭い牙を誇る。それを見たドリスとリンは圧倒され、改めて自分達の先ほどの考えが甘い事を思い知らされるた。



(強い……さっきよりも確実に強くなってる)



ナイは倒れているガオウを抱き上げ、手持ちの仙薬を彼の口元に運ぶ。まだ意識はあるのかガオウは苦し気な表情を浮かべながらも飲み込み、ナイに告げる。



「ぼ、坊主……油断するな、あいつは化物だ……」

「ガオウさん、しっかりして下さい」

「俺の事は良い……あいつと戦う事に集中しろ、そうしないと生き残れないぞ」



ガオウの言葉にナイは言い返せず、確かに彼の言う通りに牙竜は恐ろしい敵だった。それでもナイ達は逃げる事は許されず、自分も仙薬を口にして少しでも体力を回復させた。

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