最終章 《森の罠》
「な、なに!?」
「いったいどうした!?」
「落ち着け……こいつを見ろ」
シノビは仕留めた鼠を指差すと、全員が覗き込んで鼠の毛皮が白い事に気付く。リーナはすぐに鼠の正体が「白鼠」と呼ばれる魔獣だと気付き、シノビはいち早く気付いて仕留めたらしい。
「この森に白鼠は生息していない……つまり、奴の僕という事だ」
「奴……魔物使いの事!?」
「どうやら奴は我々の行動を監視しているようだ。油断するな、何処で見られているか分からんぞ」
「そんな……」
リーナはシノビの言葉を聞いて警戒するように周囲を振り返るが、今の所は怪しい影は見当たらない。一刻も早くナイ達の元へ向かわねばならないのに魔物使いに警戒しなければならない事に焦れる。
ナイ達との距離はそこまで遠くはなく、あと少しという所で辿り着けるのに魔物使いを警戒しながら進まなければならない事に焦りを抱く。しかし、焦っていても状況は好転せず、シノビは他の者に警戒するように注意しながら自分は先頭を歩く。
「油断するな、どんな罠が仕掛けられているのか分からん」
「罠って……どんな罠だよ」
「魔物を伏せているという事?」
「いや、近くに強い気配は感じない……だが、魔物を伏せる以外にも罠を仕掛ける事はできるだろう」
説明しながらシノビは草むらを掻き分け、彼は何かを見つけて眉をしかめる。シノビの反応に気付いた他の者たちは様子を伺うと、彼は拾い上げた物を見せた。
「これを見ろ」
「これは……魔石?」
「そうだ、しかもただの魔石ではない。マグマゴーレムの核だろう」
「核!?」
草むらの中に隠れていたのはマグマゴーレムの核であり、それを拾い上げたシノビは慎重に壊さぬように他の者に見せつけた。どうしてこんな所にマグマゴーレムの核があるのかと全員が思ったが、すぐに用意した人物を思い浮かべる。
「まさか、魔物使いの仕業か!?」
「そういう事だ……奴の能力ならばマグマゴーレムを従えて核を強制的に回収する事もできる。恐らく、あちこちに仕掛けているだろう」
「ええっ!?」
「おい、待て……マグマゴーレムの核は普通の火属性の魔石よりもやばいんだろう!?」
「通常の火属性の魔石の何倍もの魔力を秘めている……これが爆発すればとんでもない被害を及ぼす」
マグマゴーレムの核は市販の魔石の何倍もの魔力を秘めており、もしも傷ついて内部の魔力が暴走した場合、大爆発を引き起こす。
爆発の威力は赤毛熊などの魔物も簡単に吹き飛ばす威力を誇り、それが森のあちこちに設置されていたとしたら大変な事態に陥る。シノビは慎重に回収したマグマゴーレムの核を懐にしまい、周囲の様子を伺う。
「お前達もここから先は慎重に進め……一つでも誤って爆発すれば取り返しのつかない事態に陥るぞ」
「お、おう……」
「だが、ここまで来たら急いで移動して森を抜け出した方がいいのでは?」
「抜け出した先に罠が仕掛けられていない保証はないぞ」
「それは……そうかも」
仮に森を抜け出したとしても罠が仕掛けられている可能性があり、後続の部隊は急いでナイ達の援護に向かう事ができなくなった。リーナはナイの事が心配であるが、自分が勝手に行動するわけにはいかず、彼女はナイ達の無事を祈る――
――その一方で谷の方では傷ついた牙竜を相手にロランとドリスとリンが向かい合っていた。この3人が他の誰よりも早くに谷に到着できたのは3人の持つ武器が関わっていた。
リンの場合は暴風を利用して風を纏って高速移動を行い、ドリスの場合は真紅の能力で槍の柄の部分から火属性の魔力を放出して加速し、そしてロランの場合は双紅刃を利用した特殊な移動法を身に着けていた。
「グアアアアッ!!」
「逃さん!!」
傷を負って逃げ出そうとする牙竜に対し、ロランは両手で抱えた双紅刃を振り回すと、ある程度の魔力を蓄積した状態で駆け出す。ロランは移動の際中に地面に向けて双紅刃を叩き付け、その際に刃から衝撃波を生み出して加速を行う。
双紅刃を叩き付ける事で衝撃波を放ち、それを利用してロランは高速移動を行う。この移動方法は見た目以上に緻密な魔力操作を行う必要があり、必要以上に魔力を込めると移動速度と距離が大変な事になって下手をしたら自爆しかねない。
ロランがこの移動法を身に着けるのに10年の歳月を費やし、そのお陰で彼は牙竜と同等以上の移動速度で追撃を行えた。逃げ出そうとする牙竜に対し、その背中に容赦なく攻撃を加える。
「ぬんっ!!」
「グギャアッ!?」
双紅刃の刃が牙竜の背中を斬りつけ、血飛沫が舞い上がる。傷を受けた牙竜はその場に倒れ込み、悔しがるように牙を剥きだしにしてロランを睨みつけた。
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