貧弱でも英雄になれますか？

最終章 《討伐隊VS牙竜》

「はああっ！！」

「うぐぅっ！？」

衝撃波を放ったのはリンであり、彼女は暴風から生み出す事ができる風の斬撃の威力を調整してナイを吹き飛ばす。牙竜の背中から離れる事に成功したナイはそのまま地面に落下するが、それを駆けつけたガオウが受け止めた。

「おっと！！危ない、危ない！！」

「がふっ……ガオウ、さん？」

「よう、大丈夫か？」

ガオウはナイを受け止めると彼を下ろし、その間に牙竜は地面に衝突した。ナイを押し潰すために背中から地面に突っ込んだが、あと少しという事で邪魔された事に怒りを抱く。

「グアアアアアッ！！」

「うおっ……何て迫力だ」

「ちっ……」

「これは中々歯ごたえの有りそうな敵ですわね！！」

「うむ」

リンとガオウ以外にもドリスとロランが現れ、その姿を見てナイは討伐隊がようやく到着した事を悟る。どうやら無事にシノビとイリアとプルリンを連れてビャクが戻ったらしく、ここまで連れてきたらしい。

ロランは双紅刃を構えるとリン達も武器を構え、この時にナイは他の者はどうしたのかと思ったがガオウがナイの疑問に気づいたように応える。

「他の奴等は遅れてやってくる。安心しろ、それまでの間はしっかりと俺が……」

「グギャアアッ！！」

「って、いきなりかよ！？」

「うわわっ！？」

ナイとガオウの元に目掛けて牙竜が突っ込み、それを見たガオウは咄嗟にナイを抱えて攻撃を躱す。ここまでの戦闘でナイは疲弊しきっており、まともに戦える状態ではない。

「グアアッ！！」

「うおおっ！？こっち来んぁっ！！」

「いかん！！全員、援護しろ！！」

「了解！！うちの団員候補に手を出すな！！」

「どさくさに紛れて何を言ってますの！？」

ロランの号令の元、リンとドリスは牙竜の元に目掛けて駆け出す。牙竜は側面から近付いてくるドリスとリンに気付き、尻尾を振りかざして放つ。

「グアッ！！」

「避けろっ！！」

「言われなくてもっ！！」

振り払われた尻尾に対してドリスとリンは上空に跳んで回避すると、二人は飛び上がった際にお互いの魔剣と魔槍を交わし、息を合わせた攻撃を行う。

「爆炎！！」

「斬！！」

「グギャアッ！？」

ドリスの真紅が爆炎を纏うとリンの暴風が風の斬撃を放ち、炎の斬撃がに牙竜に襲い掛かる。思いもよらぬ攻撃を受けた牙竜は怯み、その隙を逃さずにロランが駆け出す。

移動の際中に双紅刃を振り回しながらロランは刃に魔力を蓄積させ、最大の一撃を放つために振りかざす。牙竜の右腕に目掛けて彼の双紅刃が放たれた。

「ふんっ！！」

「グギャアアアアッ！？」

「うおっ……さ、流石は大将軍！！」

「凄い……！！」

ナイの攻撃でさえも掠り傷を与えるのがやっとだったが、ロランの振り下ろした双紅刃は牙竜の右腕に生えている羽根を切り裂き、派手な血飛沫が舞い上がる。

ロラン達の攻撃を受けた牙竜は慌てて距離を置き、身体に纏った炎を掻き消すために川に飛び込む。しかし、魔法で造り出した炎は簡単に消える事はなく、水中の中でも燃え続けて牙竜を苦しめる。

――グァアアアアッ……！？

牙竜の苦痛の声が森の中に響き渡り、それを確認したナイはこのままいけば倒せるのではないかと思ったが、彼は知らなかった。牙竜という竜種は追い詰められれば追い詰められる程に恐ろしい力を発揮する事を――

――同時刻、森の中では他の者たちも谷へ向けて移動していた。彼等の戦闘はプルリンを頭に乗せたビャクが移動し、背中にはシノビも乗り込んでいた。

「ここを抜ければ谷に辿り着く！！急いで来い！！」

「はあっ、はあっ……て、てめえだけ楽してんじゃねえよ！！」

「くっ……森の中を歩くのは苦手だ」

「皆、急ごう！！このままだとナイ君が……」

「は、はい！！」

森の中を歩いているのは黄金冒険者のリーナとフィル、金級冒険者のガロとゴンザレス、他にも十数名の王国騎士が続いていた。ロラン達は先に向かったが、他の者は大分遅れていた。

リーナ達は谷までそれほど離れていない距離にまで辿り着き、あと数十秒もしないうちに目的地に辿り着ける距離まで迫っていた。しかし、移動の途中で先頭を歩いていたビャクが何かに気付いたように鼻を鳴らす。

「スンスンッ……ウォンッ！？」

「わあっ！？どうしたのビャク君？」

「この臭いは……まさか！？」

シノビもビャクに続いて気付いたらしく、彼は周囲を見渡して武器に手を伸ばす。リーナは二人の反応から何か見つけたのかと思ったが、シノビはある方向を指差す。

「そこかっ！！」

「わっ！？」

『キィイッ！？』

ビャクの背中から飛び降りたシノビは駆け出すと、彼は草むらに目掛けてクナイを放つ。その結果、クナイから鳴き声が響き渡り、姿を現したのは小さな鼠だった。