最終章 《罠》

(これはヨウ先生から貰ったペンダント……そうだ、これを使えば!!)



ナイはペンダントを握りしめ、牙竜の位置を確認する。牙竜は完全にナイの居場所を見失っており、見当違いの方向へ向かっていた。


牙竜が離れると討伐隊と出くわしてしまう可能性があり、それを避けるためにナイは牙竜を引き寄せるために水晶製のペンダントを利用する。太陽の光を反射させ、上手く牙竜の目元に光を放つ。



「グギャッ!?」

「こっちだ!!」



水晶が反射した光に気付いた牙竜はナイの存在を捉え、即座にナイは駆け出す。牙竜はナイの後を追いかけて木々を破壊しながら移動を行う。




――グギャアアアアッ!!




背後から聞こえてくる牙竜の声にナイは背筋が凍り付き、もしも追いつかれたら今度こそ殺されてしまう。それでもナイは危険を犯して牙竜を引き寄せたのは逃げ切れる自信があったからだった。


山や森の中を移動する事は子供の頃から慣れており、しかもナイに都合がいいのは牙竜は図体が大きすぎて森の中を移動する場合は木々を破壊しなければならない。樹木を壊しながら移動する場合、いかに牙竜といえども移動速度は落ちてしまう。


もしも牙竜が冷静に木々を潜り抜けて移動すればナイに瞬く間に追いつく事もできただろう。しかし、ここまでの戦闘で牙竜は頭に血が上って冷静な判断ができず、ナイの後を追いかける事だけに集中していた。



(よし、付いて来ている!!後は上手くこれを使えば……!!)



ナイは自分が持ったペンダントに視線を向け、牙竜を罠に嵌めるためにまずは牙竜を一度振り切る必要があった――






――しばらく時間が経過すると、ナイの後を追っていた牙竜は谷の川原の方に戻ってしまう。ナイの後を追いかけていたのだが、いつの間にかぐるりと回って戻ってきてしまったらしい。



「グギャアッ!?」



川原に辿り着いた牙竜は周囲を見渡し、この場所に間違いなくナイが逃げたはずだった。この川原のどこかに身を隠しているのは間違いなく、牙竜は周囲を見渡しながら様子を伺う。


ナイの姿は見当たらないが、この川原には彼が身を隠すには十分な大きさの岩があちこちに転がっている。牙竜はナイが隠れられる大きさの岩を見つけると、前脚を叩き付けて粉々に吹き飛ばす。



「グアアアアッ!!」



川原に存在する全ての岩石を破壊する勢いで牙竜は次々と砕いていくと、その途中で目元に光を押し当てられる。



「グギャッ……!?」



森の中でも目元に光を当てられた事を思い出し、目が眩んでよく分からないが視界の端に青色に光り輝く水晶を捉えた。牙竜はナイの仕業だと思い込み、水晶に目掛けて突っ込む。



「グアアアアアッ――!?」



だが、牙竜が突っ込んだ先には岩の上に水晶のペンダントが立てかけられており、肝心のナイの姿は見当たらなかった。牙竜はペンダントが太陽の光を反射して自分の顔に当たった事に気付き、そしてペンダントの傍にはナイの姿は見当たらない。


この時に牙竜は罠に嵌められた事を悟り、ペンダントの光に反応して隙を見せた牙竜の背後に近付く影があった。それは岩の中ではなく、川の中に身を隠してたナイが全身水浸しになりながらもを手にして牙竜の背中に飛び掛かる。



「うおおおおおっ!!」

「グギャアアアアッ!?」



岩砕剣が牙竜の背中に叩き込まれ、牙竜は悲鳴が響き渡る。不意を突かれた牙竜は背中に岩砕剣の先端が突き刺さり、今度は掠り傷程度の損傷ではなく、刃が食い込む。一撃の重さは岩砕剣の方が上回り、更にナイは旋斧を引き抜いて岩砕剣が突き刺した傷口に旋斧を叩き込む。



(ここだっ!!)



岩砕剣の一撃で牙竜の背中にできた傷口に旋斧を叩き込み、闇属性の魔法剣を発動させた。体内に再び闇属性の魔力を送り込まれた牙竜は生命力が削り取られ、必死にもがいてナイを振り払おうとした。



「アギャアアアアアッ!?」

「くぅうっ……!?」



みっともない悲鳴を上げて牙竜はナイを振り払おうとしたが、ナイは旋斧を背中に突き刺した状態で必死にしがみつき、意地でも離れない。確実に牙竜の体内に闇属性の魔力が流し込まれ、生命力を削っていく。



(こいつだって生き物だ!!いくら化物のように強くても不死身じゃない!!)



竜種という生物はどれほど恐ろしい存在なのかはナイも理解しているが、それでも決してこの世に不死身の生物など存在しない。いくら強大な力を持つ牙竜といえど、体内から攻撃を与えられえれば無事では済まない。


闇属性の魔力は生命力を奪い、その効果が表れ始めたのか牙竜の動作が鈍くなっていく。それでも竜種の生命力は凄まじく、牙竜は渾身の力を込めて上空へ跳躍した。



「グガァアアアアッ!!」

「なっ……!?」



牙竜は上空へ跳躍すると、背中から地上へ向けて落下する。このままではナイは押し潰されてしまうと思われた時、何処からか衝撃波が発生してナイの元へ向かう。

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