最終章 《牙竜との戦闘》

(出し惜しみしている暇はない!!全力で戦うんだ!!)



ナイは牙竜と向かい合った時点で強化術を発動させ、自分の肉体の限界まで身体能力を上昇させる。相手は竜種である以上、一瞬でも手を抜けば殺されてしまうという覚悟で挑む。


強化術を発動させたナイは旋斧を握りしめ、まずは牙竜の意表を突くために魔法剣を発動させた。魔法腕輪を通してナイは旋斧にの魔力を送り込み、刀身が黒色に染まる。



(この魔法剣はあんまり使いたくはないけど……文句は言ってられない!!)



闇属性の魔法剣はあまりにも危険過ぎるため、ナイは普段は使用を禁じている魔法剣だった。闇属性の魔法剣は生物に触れると相手の生命力を奪い、場合によっては自分よりも強大な相手にも通じる。


牙竜は旋斧が黒く染まった事に驚いたが、それも一瞬ですぐに気を取り直してナイに前脚を振りかざす。牙竜の前脚には刃物のように鋭い爪が生えており、牙山の岩壁をも抉り取る破壊力を誇る。



「グアアアアアッ!!」

「だああっ!!」



前脚を頭上に向けて繰り出してきた牙竜に対し、ナイは全力で旋斧を振りかざして下から振り払う。前脚の爪と旋斧の刃が衝突した瞬間、地面に振動が走ってナイは後ろに吹き飛び、牙竜も前脚が弾き飛ばされてしまう。



「グギャッ……!?」

「うわぁっ!?」



強化術を発動したナイでさえも牙竜の攻撃には耐え切れず、地面に危うく倒れそうになったがどうにか踏み止まる。その一方で牙竜の方は前脚は弾かれた時に力が奪われる感覚に襲われ、戸惑った様子で自分の前脚とナイを交互に見る。



(よし、効いてる!!闇属性の魔法剣なら通用する!!)



闇属性の魔力を宿した状態の旋斧に触れた事により、牙竜はわずかながらに生命力を奪われた。このまま攻撃を続ければ牙竜は生命力を削られていき、最終的には動く事もままならない。


しかし、仮にも竜種である牙竜の生命力は並の魔物と比べても凄まじく、相手の攻撃を弾くだけでは大した効果はない。ナイは旋斧を構えて振り翳し、どうにか「連撃」を食らわせる方法を考える。



(相手の攻撃を弾くだけだと牙竜には勝てない。もっと深手を与えないと……)



ナイは防御に専念するのではなく、敢えて自ら攻撃を仕掛けて牙竜に深手を負わせられないかと考える。幸いにも牙竜は闇属性の魔法剣を受けた際に警戒心を抱き、ナイの様子を宇迦宇だけで攻撃を仕掛ける様子がない。



(このまま睨み合ってても埒が明かない……ここは仕掛けるしかないんだ!!)



危険を承知でナイは牙竜に目掛けて自ら突っ込み、ナイの方から自分に向かってきた事に牙竜は驚愕した。



「やあああっ!!」

「グギャッ!?」



自分から突っ込んできたナイに対して牙竜は意表を突かれたが、即座に牙竜は右前脚を振り払う。その攻撃に対してナイは空中に跳んで攻撃を回避すると、牙竜が振り払った前脚が地面を抉り、周囲に川原の土砂や石が飛び散る。


空中で攻撃を回避したナイは身体を回転させながら旋斧を振りかざし、牙竜の身体に目掛けて振り下ろす。牙竜は咄嗟に左前脚を前に出してナイの攻撃を受けた。



「喰らえっ!!」

「グギャアッ!?」



ナイの振り下ろした刃は左前脚に生えている羽根の部分に触れ、血飛沫が舞い上がる。ナイの旋斧は牙竜の羽根に傷をつける事に成功したが、攻撃を仕掛けたナイは顔を歪ませた。



(硬いっ……!?)



牙竜の肉体はまるでアチイ砂漠で戦った土鯨のように非常に硬く、ナイの一撃を受けても掠り傷程度の損傷しか与えられなかった。足場がない空中での攻撃だったので本来の力を引きだせなかったという理由もあるが、それでも牙竜の硬さは尋常ではない。


火竜の鱗も硬かったが牙竜の鱗はそれ以上の硬度を誇り、地上に着地したナイは即座に距離を置く。一方で牙竜の方は傷を受けた箇所を舌で舐め取り、改めてナイと向き直る。



「グゥウウウッ……!!」

「はあっ、はあっ……!!」



まだ戦闘が開始してから十数秒程度だが、ナイは既に息が上がっていた。身体の負担が大きい強化術を維持させて体力が消耗したのも理由の一つだが、一番の原因は牙竜の放つ威圧感に圧倒され、思っていた以上に身体が上手く言う事を聞かない。



(あの時と同じだ……)



ナイは子供の頃に赤毛熊と対峙した時と思い出し、あまりの恐怖にナイは自由に身体を動かす事ができず、結果として彼は養父アルを失った。あの時と同じように今のナイは牙竜という存在に恐怖を抱き、身体が思うように言う事を聞かない。


これまでに様々な強敵と戦ってきたが、それでもナイの傍には味方が居た。しかし、今のナイは頼る存在は側に居らず、そのせいでナイは思うように戦えない。このまま自分は殺されるのかと思った時、不意にナイの顔に光が当てられる。

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