最終章 《アンの思惑》
ムサシノ地方に討伐隊が訪れた事はアンもすぐに気づいた。鮫のような外見をした飛行船など気付かない方が無理があり、彼女は王国から派遣された軍隊がムサシノ地方へ到着したと判断する。
目的は自分が盗み出した書庫の資料が関係しているのは間違いなく、予想よりも随分と早くに軍隊が来た事はアンの誤算だった。だが、軍隊が自分を追って派遣される事はアンも予測し、すぐに彼等の様子を伺う。
アンにとっては都合がいい事にこの森には多数の魔獣種が生息しており、それらを仲間に加えて偵察へ向かわせた。下手にアンが動くと気付かれる恐れがあり、彼女は魔獣を利用して軍隊の数と人員を把握する。
『猛虎騎士団、聖女騎士団、銀狼騎士団、黒狼騎士団、それと白狼騎士団と黄金級冒険者……思っていた以上に数が多いわね』
魔獣が得た情報からアンは王都の戦力の殆どがこの地に集まっている事を知り、彼女を捜索するためにここまで追ってきた事は間違いない。だが、彼等の目的はアンの捕縛だけではなく、牙山に生息する「牙竜」の討伐のために出向いた事はすぐに分かった。
『私一人を捕まえるためだけにわざわざこれほどの戦力を揃えるはずがない。目的は牙山に封じられている妖刀……それを守る牙竜の討伐が目的なのね』
軍隊の目的が牙竜の討伐と知った途端、アンは自分の思惑通りに王国軍が動いた事を喜ぶ。最初から彼女は王国軍が自分を追ってムサシノ地方まで出向いてくる事は予想していた。だからこそ王城に忍び込んだ時、敢えて彼女は盗んだ証拠を残して王都を脱出した。
聖女騎士団に所属するレイラを殺した時点でアンは王国軍に追われる立場になった事は理解しており、王国軍との衝突は避けられないと考えていた。しかし、アンが従えている魔物だけでは王国軍に太刀打ちはできない。
黒蟷螂もブラックゴーレムも高い戦闘力を誇っているのは事実だが、王国にはナイを筆頭に厄介な武芸者が何名も居た。貧弱の英雄と呼ばれる「ナイ」獣人国では王国の守護神と襲られる大将軍の「ロラン」冒険者の中でも最強と謳われる「ゴウカ」他にも有名な武人や魔術師は何人もいる。
これらを相手にアンが従える魔物達だけでは対抗できるはずがなく、そもそも魔物使いは無限に魔物を従えさせられるわけではない。魔物使いは
『力が必要……もっと大きな力が』
王国に対抗するためには絶対的な力を持つ存在を従える必要があると判断したアンは、優秀な手駒だった黒蟷螂もブラックゴーレムも敢えて王国軍に差し向けた。結果から言えば飛行船を破損させる事に成功したが、黒蟷螂もブラックゴーレムも倒されてしまい、もうアンの元には偵察のために服従化させた力の弱い魔獣が数匹しかいない。
それでもアンは黒蟷螂とブラックゴーレムを捨て駒として利用したのには理由があった。その理由とは彼女はこれからある魔獣を従えるため、どうしてもあの2匹は手放さなければならなかった。力の強い魔物を従えさせているとアンは他の魔物を従える事ができず、これからアンが服従化させる予定の魔物は黒蟷螂とブラックゴーレムを従えたままでは絶対に仲間にはできない。
「もう少しね……上手くやりなさいよ、英雄さん」
アンは谷に近付いてくるナイ達の存在を感知し、彼女は見つかる前に早々へ立ち去る。魔物使いであるアンは魔物に関する気配も敏感なため、白狼種であるビャクの気配も感じ取れた。
彼女はナイ達が谷に辿り着く前に身を隠し、王国軍が牙山に向かうのを待つ。彼女の目的を果たすためには王国軍の力も必要であり、彼女は森の中に姿を消した――
※区切りがいいのでここまでにしておきます。短めだったので今日も1話分多く投稿しました。
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