最終章 《飛行船の修理》

――その後、隠れ里の方に連絡が入るとすぐにロラン達が飛行船の方へ駆けつけてくれた。飛行船の被害は予想以上に酷く、飛行船に同行していたハマーンの弟子達でも修理するのに時間が掛かる事を伝える。



「こいつは酷いな……とてもじゃないがこの状態で動かしたら船がぶっ壊れちまう」

「どうにかできないのか?」

「う〜ん……一応、飛んでも問題ない程度に直すにも時間はかかる。そうだな、三日はかかるだろうな」

「三日か……」

「飛行船が飛べないという事は私達も戻る事はできませんからね」



飛行船が飛べるように修理するには最低でも三日はかかるらしく、その間は討伐隊は地上に残る事になる。これで万が一にも討伐隊は牙竜との戦闘に敗れたとしても飛行船に乗って退散するという手段は失われた。



「飛行船が直るまで牙竜の討伐を延期する事はできないのか?」

「無理だな。既にアンという魔物使いはこの場所に辿り着いているのは間違いない……真っ先に飛行船を襲ったのも俺達の退路を断つためだろう」

「くそっ……何処に隠れてるんだい!!」



飛行船を襲撃した黒蟷螂には鞭の紋様が刻まれ、その後に現れたブラックゴーレムも魔物使いのアンが送り込んだ事は確定していた。つまりはアンは既にムサシノ地方へ到着しており、彼女の狙いが牙竜だとしたら最早一刻の猶予もない。


アンが牙竜を服従させ、牙山に封じられた妖刀を手にする前に討伐隊は何としても牙竜の討伐を果たさなければならない。しかし、また飛行船が襲われた場合に備えて戦力は残しておかなければならない。



「飛行船の守護のため、戦力を分断する。聖女騎士団はアンの捜索を行うため、討伐隊からは除外しておく」

「悪いね……こっちも全力でアンの奴を探すのに集中するから、後の事はあんた等に任せるよ」

「ええ、お任せください!!」

「仮にアンが牙竜の元に居た場合、奴を捕まえて差し出す事を約束します」



テンは申し訳なさそうに牙竜討伐には参加できない事を伝えると、ドリスとリンは気にしないように告げる。聖女騎士団には飛行船の守護とアンの捜索を任せ、同行していた冒険者達もアンの捜索を行うようにロランは指示を出す。



「君達は聖女騎士団と協力し、アンの捜索を手伝ってくれ」

「ちっ……牙竜とやらを見て見たかったがな」

「仕方ないだろう」



ガロとゴンザレスはこの場に残り、他にも何名か同行していた冒険者がアンの捜索を手伝う。ちなみに試験に合格したのはガロとゴンザレスだが、他に参加した冒険者はギルド側から推薦した優秀な冒険者達である。



「こうしてみると結構冒険者も乗ってるんだね」

「うん、中には凄い人もいるんだよ。変わった武器を持っている人とかもいるし……」

「へえ、そうなんだ」



リーナの話を聞いてナイは集められた冒険者に視線を向け、確かに変わった武器を所有する冒険者も多くいた――






――部隊分けの会議が終わった結果、牙竜の討伐に参加するのは大将軍であるロラン、銀狼騎士団副団長のリン、黒狼騎士団副団長のドリス、そして黄金級冒険者の3人も参加は確定した。


白狼騎士団はナイが代表として参加し、ミイナとヒイロは飛行船の守護のために残る。二人は元々はアルト王子の護衛であり、ドゴンが負傷して戦えなくなったので二人が本来の業務であるアルトの護衛に戻る。


他にも各拠点の連絡役としてクノは残る事が決まり、聖女騎士団と冒険者は当初の予定通りに飛行船の守護とアンの捜索を行う。全員の準備が整うと、ロランは隠れ里に移動してシノビに牙山まで案内を任せる。



「牙山とやらに移動するまでどれほど時間が掛かる?」

「距離はそれほど離れていません。しかし、移動の際に谷を越える必要があります」

「何か問題があるのか?」

「この谷は見晴らしがよく、罠を仕掛けやすい場所です。もしもアンが待ち伏せしていた場合……」

「罠を張られる可能性がある、か……」



シノビの取り出した地図を確認したロランは考え込み、既にムサシノ地方にアンが入り込んでいるのは確定していた。そう考えるとシノビの言う通りに罠を張りやすい場所は警戒する必要があるが、ここでナイが思い出したように告げた。



「あの……罠が張られているかどうか先に僕が確かめてきましょうか?」

「え、ナイ君が!?」

「それは助かるが……大丈夫か?」

「大丈夫です、僕も昔は山に住んで狩猟してたので山や森を移動するのは慣れてますし、罠が仕掛けられていてもすぐに気付けると思います。ビャクも一緒に連れて行けばアンが隠れていたとしても臭いで分かるかもしれませんし……」

「あの白狼種か……確かに心強いな。だが、一人で行かせるのは危険だ。誰か一緒について行ってくれるか?」

「あ、それなら……」



ロランの言葉にリーナが立候補しようとしたが、彼女よりも先に手を上げる者が居た。

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