最終章 《勝利の代償》
「ああああああああっ!!」
「オァアアアアッ……!?」
ブラックゴーレムの肉体が崩れ始め、背中から噴き出していた火属性の魔力も消えてなくなると、地面に砕けたブラックゴーレムの肉体の破片が散らばる。
ナイの旋斧に宿っていた火属性の魔力を使い果たしたのか、刀身は再び元の色合いに戻るとナイは地面に膝をつく。土壇場でレイラから教わった剣技を繰り出したのは彼女の仇を討つためでもある。
レイラが死んだ理由はこのブラックゴーレムにも原因がある。もしもアンが現れた時にブラックゴーレムを従えていなければ彼女は死ぬ事はなかったはずだった。最終的に止めを刺したのは黒蟷螂だが、その黒蟷螂とブラックゴーレムを使役しているのはアンであり、アンを倒さなければ真の仇討ちを果たしたとはいえないかもしれない。
「はあっ、はあっ……」
力を使い果たしたナイは汗が止まらず、そんな彼の元に近付く人影があった。その人影はナイの後ろに回り込むと、無防備な彼に抱きつく。
「ナイ君!!大丈夫!?」
「あいだだだっ!?」
「ちょ、止めなモモ!!今のそいつは全身筋肉痛でまともに動けないんだよ!?」
「あ、ごめん……」
ナイに抱きついたのは先ほど吹き飛ばされたはずのモモ達であり、全員がいつの間にか治療を行っていたのか怪我人は一人もいなかった。どうやらナイが戦闘に夢中の間に全員回復していたらしい。
「み、皆……無事でよかった」
「万が一の事態に備えて私が普段から持ち歩いている回復薬を渡したんですよ。まあ、半分ぐらいはモモさんの回復魔法で治ったんですけど……」
「えへへ〜……ナイ君もすぐに治してあげるね」
モモなナイの背中に掌を構えて回復魔法を施し、その間にテン達はナイが倒したブラックゴーレムの様子を伺う。確実に倒しているのか確かめる必要があり、要注意しながら破片を拾い上げると、驚くべき物を発見した。
「な、何だいこれは!?」
「どうかしました?」
「これを見てくれよ……こいつ、体内にどれだけ魔石を隠してたんだい」
テンが指差した方向には無数の火属性の魔石が散らばっており、数も大きさも尋常ではなかった。アルトが確認すると、彼は落ちている魔石の正体がゴーレムの「核」だと気付く。
「これは……どうやらただの魔石じゃないね。恐らくはゴーレムの核だろうね」
「核?このブラックゴーレムの核という意味?」
「いや、違う。これは別のゴーレムの核を体内に隠し持っていたんだ。なるほど、これで分かったぞ。こいつが火属性の魔力をあれだけ消費しながら魔力切れを起こさなかったのは体内に大量の核を隠し持っていたせいか」
ブラックゴーレムは体内に複数の他のゴーレムの核を隠し持っていたらしく、必要な時に体内の核から魔力を吸収して攻撃に利用していた事が判明する。
黒水晶に蓄積させる魔力だけでは限界があり、必要な時にだけ体内に隠した核から魔力を吸収し、それを黒水晶に流し込んで攻撃に利用していた事が発覚した。
「それにしても恐ろしい相手だったな……はっ!?そうだ、僕のドゴンは!?ドゴンは大丈夫なのか!?」
「ドゴン?」
「ああ、そういえば飛行船の方に吹っ飛んでたね……」
ドゴンの事を思い出したアルトは慌てて飛行船に戻ろうとした時、飛行船の穴から顔面部分が少々溶けてしまったドゴンが姿を現す。
「ド、ドゴォンッ……」
「ああ、良かった!!ドゴン、生きてたんだね!!」
「あの攻撃を受けてよく無事だったね!?」
「流石はオリハルコン……ですけど、無傷じゃすみませんでしたね」
ドゴンはふらつきながらも主人であるアルトの元に戻り、アルトは涙を流しながら彼に抱きつく。そして溶けてしまったドゴンの顔に手を伸ばし、アルトは顔の具合を確認して頷く。
「大丈夫、これぐらいなら治せるよ。ドゴン、よく戦ったね」
「ドゴンッ……」
「全く、ナイさんよりも人造ゴーレムの方が大事なんですか?」
「いや、そんな事は……僕にとってはどっちも大事な存在だよ!!」
「はいはい、それよりもこれ……回収しておきますよ」
アルトがドゴンを心配している間にイリアはブラックゴーレムの残骸を拾い上げ、その中に金属の塊のような物体を拾い上げる。この物体こそブラックゴーレムの核であり、通常のゴーレムと違ってブラックゴーレムの核は魔石ではなく、魔法金属のような特殊な金属で構成されているのは既に判明していた。
金属の塊が発見された事でブラックゴーレムは確実に倒されている事が判明し、これで一先ずは一安心だった。しかし、あまり喜んでばかりはいられず、ナイは破損した飛行船を見て不安を抱く。
(この飛行船……飛べるのかな?)
飛行船は黒蟷螂とブラックゴーレムの襲撃のせいで酷く破損してしまい、今にも沈みかねない程の損傷を受けていた。修理するにしてもどれほどの時間が掛かるのか分からず、勝利の代償としてはあまりにも大きすぎる被害を受けた――
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