最終章 《最強のゴーレム》
「ぶはぁっ!?」
「あぷっ、あぷっ……お、溺れるぅっ!?」
「ルナさん、大丈夫ですか!?」
「しっかりしろ!!岸まで泳げっ!!」
湖に落とされた聖女騎士団は何が起きたのか分からずに混乱しながらも、岸部に向けて泳ぐ。テンは移動の際中に飛行船の様子を伺うと、甲板の方から煙が舞い上がっていた。
この時にテン達は何が起きたのか分からず、飛行船に隕石か何かが落ちてきたのかと勘違いしていた。しかし、その勘違いもすぐに飛行船から響き渡る方向を聞いて間違いだと気付く。
――オオオオオオッ!!
飛行船の船首に漆黒の金属の塊のような物で構成された「ブラックゴーレム」が出現し、その姿を見たテンはナイがグツグ火山で遭遇し、そして白猫亭を襲ったというゴーレムの事を思い出す。
「あ、あいつは……!?」
「そんな……どうしてここに!?」
「な、何すかあの黒いゴーレムは……」
「早く岸に上がれ!!」
テン達は慌てて湖から岸辺へ移動すると、ブラックゴーレムは飛行船の船首から彼女達の様子を伺い、船から飛び降りてきた。テンは咄嗟に武器を構えようとしたが、いつも背負っていた退魔刀がない事に気付く。
(しまった!?落ちた時に湖に……それとも甲板に落としてきたのかい!?)
どうやらブラックゴーレムが飛行船に衝突した際にテンは退魔刀を手放してしまい、他の者も同じなのか全員が武器を持ち合わせていない。そんなテン達に対してブラックゴーレムは咆哮を放つ。
「ウオオオオオッ!!」
「くっ!?」
「何という気迫……」
「こ、こいつ……強い」
聖女騎士団の中では怖いもの知らずで通っていたルナでさえも恐怖を感じる程の迫力をブラックゴーレムは放ち、そのあまりの気迫にテンは冷や汗を流す。
状況は最悪で今のテン達は黒蟷螂の戦闘の疲労が抜けておらず、しかも頼りになる武器や防具も持ち合わせていない。テンはこの状況でブラックゴーレムが襲撃を仕掛けてきた事から魔物使いのアンの仕業だと確信する。
(くそ、あのガキ……何処かで私達の事を見ていたのかい!?)
黒蟷螂を倒した途端に新手を送り込んできた事にテンは怒りを抱き、ほぼ間違いなくアンは飛行船の様子を伺っていた。もしかしたら近くで隠れて様子を伺っている可能性もあるが、今のテン達はブラックゴーレムの対処で手一杯だった。
(退魔刀があれば……いや、泣き言を言っている場合じゃないね。まずは飛行船に戻って予備の武器を取ってこないと……)
幸いというべきか飛行船の方は甲板の方で煙は上がっているが大破は免れていた。この飛行船は特別に頑丈な木材で構成されており、ブラックゴーレムの突進を受けても壊れていなかった。
ブラックゴーレムに対抗するには武器が必要不可欠であり、誰かが甲板に移動して船内に保管されている武器庫から武器を調達する必要があった。しかし、調達するにしてもブラックゴーレムを振り切らなければならず、テンは自分が囮役になって他の者たちに武器の回収に向かうように指示を出す。
「こいつの相手はあたしがする!!あんた達はさっさと船に戻って武器を取ってきな!!」
「テン!?」
「一人では無茶です!!私も……」
「いいから行きなっ!!」
テンはブラックゴーレムに向けて駆け出し、素手の状態で殴りつけようとした。自分でも無謀な行動だとは分かっているが、それでもブラックゴーレムの気を引くために彼女は拳を振りかざす。
「おらぁっ!!」
「フンッ!!」
「なっ!?」
しかし、ブラックゴーレムはテンの振り翳した拳に対して冷静に対処し、彼女が近付く前に右足を地面に叩き付ける。その衝撃で地面の一部が崩れてテンは足元がふらつき、その隙を逃さずにブラックゴーレムは掌底を繰り出す。
「ゴアッ!!」
「がはぁっ!?」
「ぐはぁっ!?」
「テン!!ランファン!!」
「そんなっ!?」
掌底で殴り飛ばされたテンはランファンの元まで吹き飛ばされ、巨人族である彼女も巻き込んで二人は地面に倒れ込む。テンもランファンも聖女騎士団の中では大柄だが、ブラックゴーレムは軽々と二人を吹き飛ばす。
地面に倒れ込んだ二人の元に他の者たちが駆けつけ、アリシアはすぐに殴りつけられたテンの様子を伺うと、彼女の胴体にブラックゴーレムの叩き込んだ掌底の痕が残っていた。聖女騎士団の中でも頑丈な身体のテンでなければ死んでいたかもしれず、ブラックゴーレムの怪力を思い知らされたアリシアは顔を青くする。
(なんて膂力……それにテンが攻撃を仕掛ける前に体勢を崩すなんて、まるで格闘家の動き!?)
ブラックゴーレムはテンが攻撃を仕掛ける前に相手の体勢を崩し、敵が隙を作った瞬間を逃さずに打ち込んできた。その動きはまるで熟練の格闘家の動きであり、以前に白猫亭で襲撃を仕掛けた時よりも強くなっていた。
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