最終章 《聖女騎士団の結束の力》
――かつて聖女騎士団が王国の中で最強の王国騎士団と謳われた理由、それは団長であるジャンヌが優れた指揮官であると同時に世界でも指折りの剣士であった事も理由の一つである。
しかし、聖女騎士団の一番の強みは団長であるジャンヌではなく、彼女に従える女騎士達の「結束力」だった。ジャンヌ自らが集めた女騎士達は元々は荒くれ者ばかりであり、普通の出自の人間など一人もいない。
最初の頃は騎士団同士で諍いを行う事も多かったが、大きな困難を乗り越える度に騎士団の結束力が高まり、いつの間にか女騎士達はお互いの事を「家族」と称するまでに仲が深まっていた。彼女達は一人一人が一騎当千の猛者であり、そんな彼女達がお互いに力を合わせればより大きな力となる。
聖女騎士団が他の騎士団よりも優れていた理由、それは他の仲間の事をだたの同僚や友人として接しているわけではなく、お互いに大切に想い合う気持ちを持っていたからこそ彼女達は強かった。家族が傷つけられれば本気で怒り、家族が窮地に追い詰められているとすればどんな手段を用いても助けに向かう。聖女騎士団はただの騎士団ではなく、騎士団その物が一つの家族だと言えた。
――聖女騎士団を結成した王妃ジャンヌは亡くなった。しかし、彼女の意思を継いだテンが今は彼女の代わりとしてレイラという家族を奪った黒蟷螂を倒すため、全力で戦う。他の者たちもテンに続き、家族の仇を討つために従う。
『行くよ、あんた達!!あたしに合わせな!!』
『おうっ!!』
煙の中でテン達は黒蟷螂に向けて駆け出し、この時に彼女達は全員が「心眼」を発動させる。特殊技能の心眼は一流の達人でも会得するのは難しいと言われるが、聖女騎士団の古参の騎士達は全員が心眼を習得していた。
心眼を習得した理由はジャンヌの指導であり、彼女の指示で鍛錬を受けていた騎士達は全員が心眼を習得していた。覚えるのにかなりの時間と苦労をしたが、そのお陰でテン達は心眼を利用して煙の中でも黒蟷螂の位置を掴む。
(目が見えなければお得意の鎌でもどうしようもできないだろう!?)
煙に紛れていれば複眼を持つ黒蟷螂だろうと対処はできず、視界を封じられれば如何に恐ろしい鎌であろうと意味はない。これまでの攻防で黒蟷螂が相手の動きを見て行動していた事はテンも見抜いており、視界を封じれば黒蟷螂は攻撃には対処できない。
――ギチギチギチッ!?
煙の中で黒蟷螂の戸惑う声が聞こえ、その声を耳にしたテンは相手も戸惑っている事を知り、この隙を逃さずにテン達は心眼を頼りに黒蟷螂に向かう。テン達は心眼のお陰で煙の中でも仲間の位置を探る事ができるため、誤って攻撃する事はない。
(ここだっ!!)
全員の心の声が重なり、黒蟷螂を取り囲むと全員が同時に攻撃を仕掛けた。しかし、野生の本能が働いたのか死角が封じられているにも関わらずに黒蟷螂は唐突に羽根を出すと、上空へ目掛けて飛び上がる。
「キィイイイッ!!」
煙から抜け出すために黒蟷螂は上空へ目掛けて飛び込み、その様子を心眼で確認したテンは舌打ちする。しかし、彼女が悔しがったのは自分達の攻撃が当たらなかったからではなく、最初に攻撃を当てる事ができなかったからである。
(仕方ないね……後は任せたよ)
テン達は空に顔を見上げ、黒蟷螂が煙から抜け出す瞬間を待つ。黒蟷螂は一刻も早く煙から抜け出すために羽を羽ばたかせ、遂に煙から抜け出した。
煙を抜け出す際に黒蟷螂の複眼は上に注意を払い、ほんの僅かではあるが視界が生まれた。空に逃げる事に意識し過ぎて黒蟷螂は下の注意が疎かとなり、その隙を逃さずに煙の中から1本の矢が放たれた。
「――当たれっ!!」
エリナの声が甲板に響き渡り、直後に煙を振り払いながら風属性の魔力を纏った矢が黒蟷螂の元に向かう。黒蟷螂が上空に注意を引いていたせいで僅かに生まれた複眼の死角、つまりは黒蟷螂の顎の裏側に目掛けてエルマの矢が放たれた
途中で軌道を変更しながらもエリナの放ったエルマの作り出した矢は黒蟷螂の元へ向かい、遂に首元に突き刺さる。予想外の死角からの攻撃に黒蟷螂は対処できず、声にもならない悲鳴を上げながら地上に落下する。
「ッ――――!?」
思いもよらぬ攻撃を受けた黒蟷螂は甲板に叩きつけられ、その様子を見ていたテン達は黙って黒蟷螂の元に向かう。首を矢で射抜かれた黒蟷螂はもがき苦しみ、その様子を見届けたテンは退魔刀を振りかざす。
「レイラの奴に……よろしく伝えておきな!!」
「ッ――――!!」
退魔刀の刃が黒蟷螂の頭部に叩き付けられ、轟音が鳴り響く。頭部を切断された黒蟷螂はそのまま動かなくなり、テンは退魔刀を振り払うと、何も言わずに空を見上げた――
※当初はナイが駆けつけて黒蟷螂と戦う予定でした。しかし、色々と考えた末に黒蟷螂との決着は聖女騎士団にさせる事にしました。
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