最終章 《エルマの矢》

「テン、どうすればいいんだ!?」

「教えてくれ、奴を倒す方法を……」

「テン……」

「くそっ……くそぉっ!!」



ルナたちに指示を仰がれてテンは悔し気な表情を浮かべて悪態を吐く事しかできず、彼女はやはり自分には「団長」など向いていないと思った。追い詰められた状況で冷静な判断など彼女には出来ず、ここで王妃の顔を思い出す。



(王妃様……やっぱりあたしに団長なんて無理だったんだ。あんたの代わりになんて私には……!!)



王妃の顔を思い浮かんだ途端にテンは弱気になり、レイラの仇を目の前にしたというのにどうすればいいのか分からない。そんな彼女の様子に他の者たちも気づき、不安そうな表情を浮かべる。



「ちくしょう!!ここに……!!」

「エルマさん?今、エルマさんの事を言いました!?」

「……エリナ?」



テンがエルマの名前を告げると、何故かエリナが反応してテンの元に向かう。彼女の行動にテン達は驚いていると、エリナは背中の矢筒から数本の矢を取り出す。



「出発前にエルマさんからこれを貰ったんです!!」

「こいつは……エルマの矢かい?」

「はい!!これを使えば私もエルマさんのように矢を撃つ事ができると思います!!」

「なんだって!?」



エリナが取り出したのはエルマが制作した特殊な矢であり、これを利用すれば彼女もエルマのように「魔弓術」を扱える事を話す。




――討伐隊が出発する前、実を言えばエルマも見送りに訪れていた。彼女も悩んだ末に今回の討伐隊には参加できず、王都に残ってマホを守る事を決めた。




しかし、レイラはエルマにとっても大切な友人であり、彼女の仇を討ちたい気持ちもあった。そこでエルマは討伐隊が出発するまでの間、エリナに自分の魔弓術の基礎と矢を与える。



『これを持って行きなさい、エリナ』

『えっ!?でもこの弓と矢はエルマさんの……?』

『私の力が必要だと思った時、それを使いなさい』



エルマからエリナは彼女の弓と矢を授かり、万が一にも聖女騎士団がエルマの力が必要な状況に追い込まれた時、エリナがエルマの代わりとして役目を果たすように頼まれていた。



「エルマさんの力が必要なら教えてください!!あたしが代わりにエルマさんの分まで頑張ります!!」

「あんた……撃てるのかい?」

「大丈夫です!!私もみっちりエルマさんに鍛えられましたから!!」



エリナの言葉にテンは顔色を変え、仮にエリナがエルマの魔弓術を再現できるのであれば黒蟷螂を倒せるかもしれない。テンはエルマが自分にも内緒でエリナに鍛えていた事を知り、悔しそうな表情を浮かべる。



「あの馬鹿……あたしに黙っていたなんて、本当に最悪で……だよ」

「テン?」

「よし、落ち込んでいる場合じゃないね!!エリナ、しっかりとあたしの言う事を聞きな!!」

「は、はい!!」



テンはエルマの気持ちを理解して意識を一変させ、今は泣き言を言っている場合ではないと判断すると彼女は立ち上がる。テンが心を持ち直した事で他の者たちも希望を抱き、改めて黒蟷螂に戦う意思を宿す。


黒蟷螂は女騎士達を相手に鎌を振りかざし、まだテン達の様子には気づいていない。このまま戦闘を続ければ女騎士達が被害を受けるのも時間の問題だが、テンは冷静に黒蟷螂の様子を伺う。



(あいつと戦うのに一番厄介なのは鎌じゃない……あの目だね、あの目のせいで私達の行動は常に見られている)



昆虫種との戦闘で最も厄介なのは虫の「複眼」であり、この複眼のせいで昆虫種は人間よりも遥かに広い視野を持つ。そのせいで死角から攻撃する事ができず、どんな攻撃にも対応されてしまう。



(せめて片目だけでも封じる事ができれば勝利はある……奴の目を封じればあたし達の勝ちだ)



テンは作戦を考えるとエリナに指示を与え、彼女にしっかりと狙いを外さないように注意する。



「いいかい、あたしの言った通りに撃ち込むんだよ。もしも狙いを外せばあんたの給料を減らすよ!!」

「うへぇっ……が、頑張ります!!」

「その代わりにもしも当てる事ができれば今年の給料は倍出す!!だから頑張りな!!」

「やった!!頑張ります!!」



エリナに弓を構えさせるとテンはまずは黒蟷螂の反応速度を伺うため、彼女に矢を放たせる。魔弓術が扱えるのであれば矢の軌道を変化させる事ができるため、いくら人が集まっていようと関係なく撃ち込める。



「よし、今だ!!」

「てやぁっ!!」

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「な、なに!?」



エリナが矢を撃ち込むと、放たれた矢は軌道を変化させて黒蟷螂を取り囲んでいた女騎士達を避け、黒蟷螂の左目に目掛けて向かう。それを目視した黒蟷螂は鎌を振りかざして矢を切り裂く。



「キィイッ!?」

「ちっ、この程度じゃ駄目かい……どんどん撃ちな!!」

「はいっ!!」



予想通り、不意打ちであろうと黒蟷螂は視界に捉えた矢を見逃すはずがなく、エリナの矢は鎌で破壊されてしまった。それでも構わずにエリナは矢を撃ち続け、今度は別の角度から同時に2つの矢が迫る。




※予約時間ミスりました(´;ω;`)

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