最終章 《犯人》
(まずい……これ以上に深く刺されるとマジで死ぬね……!?)
腹部に鎌が突き刺さったテンは苦痛の表情を浮かべながらも、飛びそうになる意識を抑え込み、必死にこの状況を打開する方法を考える。
鎌はテンの腹部に突き刺さったが、思っていたよりも傷は浅い。しかし、これ以上に押し込まれれば内臓が傷つき、そうなった場合はいくら回復薬でもどうする事もできない。
(早くこいつを抜かないと……!!)
攻撃を受けた時にテンは強化術を強制的に解除され、彼女は自力で身体を動かそうとするが上手く動けない。黒蟷螂の鎌は普通の剣とは違い、本物の鎌のように曲線のように曲がっているで一度突き刺さると上手く抜けない。
(まずい、このままだと本当に死ぬ……誰か、手を貸しな!!)
声を上げる事もできないテンだったが、彼女は必死に目配せするとここでルナが気づき、彼女はテンが助けを求めている事に気付くと、思いがけない行動を取る。
「テン!!」
「ぐはぁっ!?」
「キィイッ!?」
テンに目掛けてルナは突っ込み、無理やりに彼女の身体から鎌を引き抜く。刃が引き抜かれるとテンの腹部から血が迸り、一方で黒蟷螂の方は獲物を仕留めきれなかった事を知ると再び2人に襲い掛かろうとした。
「キィイッ!!」
「まずい、行かせるな!!」
「私達も戦うんだ!!」
「御二人には近づけさせないっす!!」
黒蟷螂に対してエリナ達も動き出し、彼女達が邪魔をしてくれたお陰で黒蟷螂の注意はテンとルナから離れる。他の女騎士達が黒蟷螂を相手をしている間、テンは傷を受けた箇所に手を押し当てて止血し、どうにか再生術で身体を直そうとする。
先ほどの強化術の発動でテンは大分魔力を消耗したが、ここで治療しなければ彼女の命はなく、どうにか残された魔力を消費して再生術で肉体の自然治癒力を高める。他の者たちも手持ちの回復薬を取り出してテンの治療を行おうとした。
「テン!!すぐに治すからな!!」
「や、止めな……あたしは平気だよ、こんな所で回復薬を無駄にするんじゃない……」
「何を言ってるんだ!!本当に死ぬぞ!?」
「いいからいう事を聞きな……こうなった以上、あたしはもう戦えない」
ルナが回復薬を使用しようとするのを止め、テンは憎々し気に黒蟷螂に視線を向けた。黒蟷螂は女騎士達を相手に鎌を振るい、その攻撃に対して女騎士達は苦戦を強いられていた。
「キィイイイッ!!」
「うわぁっ!?け、剣が……」
「皆さん、離れてください!!そうしないと矢を撃ちこめないっす!!」
「そ、そう言われても……わあっ!?」
黒蟷螂は4つの腕を振り回して女騎士達の武器や防具を破壊し、迂闊に近づく事もできなかった。エリナも人が集まっている中では矢で攻撃する事も難しく、そもそも矢を放ったとしても黒蟷螂の反射神経ならば回避や防御は容易い。
テン達でもどうしようもない黒蟷螂を他の女騎士達がどうにかできるはずがなく、このままでは船に乗っている者達は全滅してしまう。それを避けるためにテンは必死に頭を巡らせ、この状況を打破する方法を考えていると、不意に声が聞こえてきた。
「テン……奴、です」
「アリシア!?あんた、まだ意識が……」
「奴が……レイラを殺した相手です」
「……何だって?」
何時の間にかテンの元にアリシアが赴き、彼女は斬られた腕を抑えながらも黒蟷螂に視線を向け、冷や汗を流しながらもテンに告げた。
「貴女が刺された傷口……前にも見た事があります。レイラも貴女のように刺されて死んでいました」
「まさか……」
「ええ、恐らく奴は魔物使いに使役されている魔物……そしてレイラを殺した犯人です」
「あいつが!?」
「何だと……では、奴がっ!!」
遂にレイラを殺害した犯人を見つけたルナとランファンは憤怒の表情を浮かべ、テンも反射的に立ち上がろうとしたが腹部に痛みが走って上手く立てない。
「く、くそっ……あの蟷螂がレイラを殺した奴だっていうのかい!?」
「ええ、間違いありません。奴がレイラを殺した犯人です」
「くそったれが!!」
レイラを殺した犯人を見つけられたというのにテンはまともに身体が言う事を聞かず、他の者たちも悔し気な表情を浮かべる。悔しい事に黒蟷螂は彼女達では太刀打ちできず、このままでは聖女騎士団が全滅してしまう。
ここに魔法の使い手がいれば良かったのだが、生憎と聖女騎士団の中で魔法を使える人間は数人しかおらず、その中の誰も黒蟷螂を確実に倒せる魔法を覚えている者はいない。ここにマリンやマホがいれば黒蟷螂を倒せたかもしれないが、生憎とマホは王都で療養中、マリンは隠れ里に出ている。
(こんな時にあいつがいれば……!!)
テンは頭の中にエルマが思いつき、彼女の魔弓術ならば黒蟷螂に対抗で来たはずだった。しかし、エルマは意識を失ったマホから離れる事はできず、彼女は今回の討伐隊には参加していない。
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