最終章 《4つの鎌》

「キィイイイイッ!!」

「うわぁっ!?」

「危ない!?」

「くそっ、こいつ……!!」



自分の身体を回転させて4つの鎌を振り回す黒蟷螂に対して甲板に立っている者達は避ける事しかできず、下手に近付けば切り刻まれてしまう。まるでコマの如く回転しながら移動を行う黒蟷螂にテンは焦りを抱き、彼女はどのように対処するのかを考える。



(こいつの鎌の硬さは尋常じゃない……ミスリル製の武器を破壊するなんてどうなってるんだい)



黒蟷螂の鎌はミスリル程度の金属ではどうしようもできず、魔剣などの武器でなければ対抗すらできない。しかし、鎌以外の箇所ならば攻撃が通じる可能性もあり、テンはどうにかして黒蟷螂の鎌を避けて本体に攻撃を与える方法を考えた。


通常種の昆虫種よりも黒蟷螂が厄介なのは腕が4つもある事であり、攻撃を与えるにしても4つの腕に生えた鎌をどうにかしなければならない。テンはここで自分達の数の利を生かし、黒蟷螂が次に動きを止めた時に誰か4人に攻撃を仕掛けさせ、4人が4つの鎌を封じている間にテンが本体を仕留める作戦を思いつく。



「ランファン、アリシアの様子はどうだい!?」

「大丈夫だ、腕も繋がった!!だが、意識が……」

「それなら他の奴に任せな!!あんたも手伝いな、ルナもだよ!!」

「で、でも……こいつ、鎌で防ぐぞ!?」

「いいから聞きな!!こいつの鎌を抑えるだけでいいんだ!!馬鹿力のあんた等なら2人分の働きはできるだろう!!」



テンは聖女騎士団の中でも自分と同じく「腕力」に特化したランファンとルナに声をかけ、この2人ならば攻撃を仕掛ければ2人分の働きはできる。先ほどのように黒蟷螂は間違いなく、鎌同士を重ね合わせて攻撃を防ぐはずだった。


ランファンとアリシアがお互いに2つの鎌を抑えてくれれば黒蟷螂は自分を守る事はできず、その間にテンが止めを刺す。彼女は退魔刀を握りしめ、身体に負担は掛かるが強化術を発動させる準備を行う。



「あたしが一撃で仕留める!!だからあんた達は何としてもそいつを抑えな!!」

「ああ、分かった!!」

「よし、やるぞ!!」



ルナとランファンはテンを信じて黒蟷螂の左右に移動すると、ここで回転していた黒蟷螂は動きを止め、自分を挟み込む形となったルナとランファンに視線を向ける。昆虫種の厄介な所は複眼で彼等は人間よりも視野が酷い。そのせいで黒蟷螂は全く頭を動かさずにルナとランファンの位置を掴む。



(こいつ、2人の様子を完全に捉えているね。くそっ……でもやるしかないんだよ!!)



目配せだけでテンはルナとランファンに合図を送り、同時に攻撃を行う機会を伺う。あまりの緊張感に周囲で見守っている女騎士達も冷や汗を流し、攻撃の機会を伺う。




(――今だ!!)




テンが合図するとルナとランファンは同時に動き出し、左右から棍棒と戦斧を振り下ろす。この二人の武器は頑丈な素材で構成されているため、簡単に破壊される事はない。黒蟷螂は左右から迫ったルナとランファンに大して鎌を重ね合わせて防御の態勢を取る。



「おりゃあああっ!!」

「ふんっ!!」

「キィイッ!?」



先ほどのように左右から攻撃された黒蟷螂は2つの鎌を重ねて攻撃を防ぎ、この時に全ての腕を塞がれてしまう。それを見たテンは強化術を発動させ、限界まで肉体を強化させて突っ込む。



「うおおおおっ!!」

「キィッ……!?」



テンは強化術で身体能力を上昇させて突っ込み、黒蟷螂を確実に倒すために退魔刀を振りかざす。狙うのは頭部であり、全力で大剣を振り下ろそうとした。




――しかし、彼女の振り下ろした退魔刀が頭部に衝突する前に黒蟷螂は身体を回転させ、ルナとランファンの武器を受け流す。この行為のせいでルナとランファンの体勢は崩れてしまい、その間に4つの腕が自由になった黒蟷螂はテンに狙いを定める。




黒蟷螂の行為を見てテンは罠に嵌められたと知り、彼女は咄嗟に後ろに跳ぼうとしたが既に身体は大剣を振り下ろす行為を止める事ができなかった。黒蟷螂は二つの鎌を重ね合わせてテンの退魔刀を受けると、もう二つの鎌を伸ばしてテンの胴体を貫こうとした。



「キィイイッ!!」

「がはぁあああっ!?」

「テ、テンッ!?」

「そんなっ……」




テンの攻撃を受け止めた黒蟷螂は彼女の腹部に二つの鎌を突き刺し、甲板にテンの悲鳴が響く。それを見たルナとランファンは衝撃の表情を浮かべ、他の者たちも唖然とした。


しかし、黒蟷螂の刃は確かにテンの腹部を突き刺したが、貫通までには至らなかった。理由としては強化術の効果でテンの肉体は強化され、その影響で彼女の攻撃力が増して黒蟷螂は完全に攻撃を防ぎきれず、僅かに押し込まれていた。そのお陰でテンの腹部に突き刺さった刃は奥まで食い込まず、彼女は九死に一生を得た。

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