最終章 《隠れ里》

「くっ……」

「リンさん、腕が震えてますわよ……それでも銀狼騎士団の副団長ですの?」

「そういうお前こそ全身が震えているぞ」

「そ、そんな事はありませんわ!!これは武者震いですわ!!」



リンとドリスもナイの威圧を受けて身体が反応し、王国騎士団の副団長である二人でさえもナイの威圧に身体が反応してしまう。ちなみに討伐隊の面子の中で影響を大きく受けたのはプルリンだった。



「ぷるるるっ……」

「うわっ!?プルリンが凄く震えてる!!ごめんね、そんなに怖かった!?」

「ウォンッ(落ち着け)」



ビャクがプルリンを落ち着かせようと舐めると、プルリンはくすぐったそうな表情を浮かべ、身体の震えを止まらせた。ナイはプルリンの頭を撫でて謝る。



「ごめんね、次からは使う時は気を付けるからね」

「ぷるんっ(そうして)」

「……よし、これで邪魔者はいなくなったな。しばらくは安心して進めるだろう」



ナイの威圧のお陰で周辺から感じていた魔物の気配が消えてなくなり、恐らくだがこの地域の魔物達はナイの威圧を受けて逃げ出してしまった。討伐隊はその後は一度も襲撃を受ける事はなく、目的地であるシノビ一族が管理していた里へ向かう――






――シノビ一族の隠れ里は十数年前に魔物に滅ぼされ、今は誰一人として住んでいない。故郷へ戻ってきたシノビとクノだが、クノの場合はここで暮らしていた時期は短く、あまり思い入れはない。



「前に着た時と変わってないでござるな」

「……ああ」



シノビはクノの言葉に頷き、自分達が離れた後も誰も人間が来なかった事を確認する。そもそもここは辺境の地であり、しかも魔物が暮らす森の中に存在する廃村に誰かが訪ねてくるはずがない。


ナイが暮らしていた村も似たような環境だが、彼の村には定期的に商人が訪れていた。しかし、シノビ一族の隠れ里は完全な自給自足で王国の人間の手を借りずに暮らしていた。理由としてはこの隠れ里は王国に秘匿で造り出した里であり、本来ならば王国領地に勝手に里を作った事は許される事ではなかった。



「まさかこのような場所に人が暮らす村があったとは……」

「一応は聞きますけど、王国に税金を払っていましたの?」

「いや……この里の事を知っている王国の人間はいなかった」

「つまり、勝手に村を作って住んでいたという事か……まあ、この状況では今更責めるのも酷か」



本来であれば王国領地内の街や村は国に対して税金を支払う義務があり、ナイが暮らしていた村でさえも支払いが行われていた。尤もナイの村では金を稼ぐのも困難なため、税金の代わりに農作物の一割を引き渡していた。



「シノビ、お前の目的はとしてこの地方の領地の管理を任せてほしい……と、私は陛下から聞いている」

「はっ……その通りでございます」

「仮にムサシノの領地をお前に与えた場合、これまで未払いだった税金を支払ってもらう事になるぞ」

「なんとっ!?」

「当然の話だ。ここはお前達の祖国だったとしても、国はもう滅びて現在は王国の領地として認められている。お前達は勝手に我が領地に住み着き、村を作った事に変わりはない」



ロランの言葉にシノビは拳を握りしめ、内心では悔しく思う。確かにロランの言葉は正論で和国が滅びた時にムサシノは王国の領地となった。これは和国の民の多くが王国に受け入れる際、彼等を受け入れる代わりに今後は和国の領地は王国が管理する事を認めたからである。


最初の頃は和国の人間は王国に国を売り渡す様な真似はしたくないと反発したが、故郷を魔物に滅ぼされた和国の人間達に選択肢はなく、王国は和国の領地を吸収合併した。その後は王国の人間は和国の人間を受け入れ、彼等に不自由のない生活を与えた。


国が滅びた後は和国の人間の多くが国を取り戻そうとしていたが、長らく王国の生活に慣れてくるとその気持ちも薄れ、豊かな王国の生活に順応してしまう。それでも和国に戻りたいという人間が集まり、王国の人間に内密で里を築いた。それがシノビ一族の先祖である。



「シノビ、お前達の先祖がどんな思いでこの村を築いたのかは理解できる。国が滅びても誇りを失わず、国を再建させるために頑張ってきたのだろう。だが、私は王国の人間としてお前達の行為を見逃すわけにはいかぬ」

「はっ……」

「しかし、お前はまだムサシノ地方の管理を任される立場ではない。だから今はこの里を作った責任を取る必要はない……それに責任の取り方は色々とあるからな」

「それはどういう意味で……」

「……リノ王女様に相応しい男になれ」

「はっ……!?」



ロランの思いもよらぬ言葉にシノビは唖然とするが、そんな彼に対してロランは笑みを浮かべ、他の者たちも含み笑いを浮かべる。実を言えばシノビとリノは隠しているつもりだが、割と大勢の人間に二人の関係は知られていた。

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