最終章 《運命の時》

「――くそっ……本当に着ちまった!!」

「ヨウ司祭……あの船か?お主が見たという飛行船は……」

「……ええ、間違いありません」



イチノの城壁にてドルトン、イーシャン、ヨウは集まって空を移動する飛行船フライングシャーク号を見上げていた。今朝方、ヨウはドルトンの元に赴いて予知夢を見た事を話し、その話を聞いたドルトンはイーシャンにも連絡する。


ヨウの予知夢通りに飛行船はイチノに現れ、そのまま通過しようとしていた。それを見たヨウは不安を抑えきれず、あの飛行船にナイが乗っていない事を祈った。



(ナイ、着てはなりません。貴方がその船に乗れば運命が……)



予知夢で見た限りでは飛行船に乗り合わせたナイは強大な存在と向かい合い、彼が立ち向かう場面でいつも目を覚ましてしまう。その敵はかつてイチノを襲撃したゴブリンキングを遥かに越える恐ろしい存在だとヨウは感じとる。



「あの飛行船、何処へ向かってるんだ!?」

「落ち着け、イーシャン……我々ではどうしようもできん」

「けどよ、ナイがあの船に乗っていたら……」

「仮に乗っていたとしても……あの子を信じましょう。私達にはそれしかできません」



ヨウの言葉にドルトンとイーシャンは黙り込み、ナイの事を心配なのはヨウも一緒だったが、もう既に3人がどうこうできる問題ではなかった。飛行船を追いかけた所で3人にはナイにしてやれる事はなく、ここでナイが無事に戻ってくる事を祈る事しかできない。



(ナイ……儂は信じておるぞ、お前は過酷な運命を乗り越えて生き続けてきた。ならばきっと今回も生き残れる)

(負けるんじゃないぞナイ……お前が死んだらイーシャンが報われない)

(最後まで諦めてはいけません。ナイ、貴方はもう子供ではありません。自分の運命は自分で掴みなさい)



3人は飛行船を見てナイが生き残る事を祈り、その思いはナイに伝わったかは分からないが、彼等にできる事はナイを信じて待つ事だけだった――






――イチノの上空を通り過ぎた後、飛行船はナイの村を通り過ぎると、遂にムサシノ地方へと到着する。ムサシノ地方には山に囲まれた場所に湖が存在し、そこに飛行船を降ろす。


これまでは飛行船が降りる場所にはアンが罠として魔物を配置させていたが、まだ彼女はムサシノ地方へ到着していないのか今回は襲撃を受ける事はなかった。念のために船には人員を残しておき、討伐隊はまずは拠点確保のためにシノビ一族の里を目指す。



「この船からでは目的地の牙山から距離が離れ過ぎている。地図を確認する限りではこの村……いや、シノビ一族の里が近い」

「こうして地図で見ると意外と離れていないんだな。よくその牙竜とやらに村が襲われなかったな」

「我々の知っている限りでは村が牙竜に襲われた事は一度もない。伝承によれば牙山に暮らす牙竜は山から離れられないと聞いている」

「竜種が近くにいるお陰で拙者達の村は滅多に魔物が近付いてこなかったでござる。けど、何故か拙者が子供の頃に魔物に襲われたのは気になるでござるが……」

「今はそんな事を言っている場合ではない。アンが牙山に辿り着く前に我々が妖刀を確保せねば……」

「うむ……では、出発するぞ!!」



ロランは飛行船の守護のために聖女騎士団を残し、他の騎士団と冒険者を引き連れてシノビ一族の里へ目指す。牙竜との戦闘の際中にアンが飛行船を襲撃してくるかもしれず、相応の戦力は残しておく必要があった。


聖女騎士団も飛行船に残ったのは戦力が減少した飛行船にアンが乗り込んでくる事を想定し、敢えて自分達が残る事を決めた。こうしてムサシノ地方へ辿り着いた討伐隊は本格的に動き出す――





※区切りがいいのでここまでにしておきます。

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