最終章 《シノビ一族の悲願》

――和国の子孫であるシノビ一族は「ダイダラボッチ」に滅ぼされた祖国の復興のため、何百年もの間も王国の辺境の地で過ごしてきた。ダイダラボッチに滅ぼされた後も彼等は和国の領地だった場所に住み続け、忍術を磨き続けてきた。


そんな彼等の暮らしていた里が魔物に襲われ、一族の人間は殆ど死亡した。シノビとクノは父親のお陰で脱出できたが、他の者たちは助からずに死んでしまう。そして父親も魔物との戦闘で受けた傷が原因で死んでしまった。



『シノビ……これからはお前がシノビ一族の長だ』

『父上、父上!!』



シノビは父親に幼い妹を託された後、彼は父親を埋葬して王国の地で暮らす。最初の頃は苦労したが、妹が育って冒険者になった頃には生活も楽になった。銀級冒険者まで昇格した頃には知名度も上がって依頼人も殺到する。



『兄上、このままでいいのでござるか?』

『……言うな』



しかし、冒険者として名を上げて生活が豊かになってもシノビの気持ちは晴れず、クノもそんな兄を心配する。いくら冒険者として名を上げて腕を磨いたとしても、彼の一族の悲願である「和国」の再建の目途は立たない。


そんな時にシノビは王国を治める王族に近付くため、銀狼騎士団に目を付けた。銀狼騎士団はゴブリンの軍勢の討伐のためにイチノ地方へ赴き、その話を聞いたシノビは好機だと思ってイチノへ向かう。



『どうか我々も協力させてください』

『必ず力になるでござる!!』



当時から有名な冒険者だったシノビとクノが銀狼騎士団に協力を申し込むと、あっさりと騎士団は受け入れてくれた。敵の戦力が未知数である事、何よりも腕利きの冒険者が自ら志願してきた事に銀狼騎士団の団長のリノは快く受け入れた。



『貴方達の熱意は伝わりました。共に戦いましょう』



最初に会った時、リノは男装をしていた。しかし、シノビは初めて見た時から彼女が女性である事に薄々気付いていたのかもしれない。それほどまでに彼にとってリノは美しい存在に見えた――






――その後は紆余曲折あってシノビはリノの側近に昇格し、妹のクノは冒険者稼業を続けながらも騎士団に協力している。冒険者活動を止めなかったのは冒険者ギルドの内情を探るためであり、彼女はシノビに定期的に報告を行う。



『兄上、リノ王女との仲は進展したでござるか』

『……黙れ』

『そうはいっても兄上とリノ王女が結ばれれば拙者達の悲願を果たす絶好の好機でござるよ』

『やかましい!!』



シノビはクノの言葉を聞いて激高したが、実際の所は彼女の言い分は決して間違いではない。クノの言う通り、シノビがリノと結ばれれば彼は晴れて王族と認められ、もしもバッシュとアルトの身になにかあれば彼がこの国の王に就く。


目的のためならば手段は選ばずに生きていく事を誓い、シノビが最初にリノに近付いたのはシノビ一族の目的を果たすためである。リノもシノビに対して明確に好意を抱いており、どんな時でも彼を自分の傍に置いていた。


クノの言う通りにシノビがリノと結ばれた場合、和国の再建に大きく近づく。王族である彼女と結ばれれば和国の領地だった場所をシノビが貰い受け、名目上は王国の配下とはいえ、王国の領地としてシノビは和国の領地を管理できる。



『拙者には何を迷うのか分からないでござる。兄上もリノ王女も好き合っているのであれば良いではないでござるか』

『そんな簡単な話ではない!!黙っていろ!!』



実際の所、シノビがリノと結ばれるのは簡単な事ではなく、一刻の王女とただの側近が結ばれるのは普通ならばあり得ない事である。王族であるリノは獣人国の王族との諍いのせいで生まれた時から男として育てられていたが、今は女性である事を明かしている。そのせいで縁談を申し込む貴族や他国の王族も多い。


シノビは生まれはともかく、この国ではただの一般人でしかない。しかし、今現在の彼は白面と呼ばれる暗殺者を統率する立場を任せられ、王国にとっても重要人物となった。このまま王国の信頼を得られればリノと結ばれる可能性もある。


リノが誰とも婚約をしないのはシノビの事を愛しているからであり、彼女のためにもシノビはもっと功績を上げなければならなかった。今の彼にとっては和国の再建も大事だが、リノという存在を守るために戦う気持ちの方が大きい――





「――兄上、もうすぐ到着でござるよ」

「……ああっ、そうか」



妹の声を耳にしたシノビは自分がいつの間にか眠っていた事に気付き、目を覚ますと彼の前には戦闘装束に着替えたクノが立っていた。もう間もなく二人は自分達の暮らしていたムサシノ地方へ戻れる事を悟り、今回のために用意した戦闘装束を身に着ける。



「いよいよ拙者達の故郷に戻れるのでござるな」

「そうだな……気を引き締めろ」



クノの言葉にシノビは頷き、二人は目的地に辿り着くまで準備を整える。その一方で彼等と同じように「故郷」に戻る事を意識する者が一人居た。

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