最終章 《アンの野望》

――飛行船が巨大なワニ型の魔物を打ち倒した時、契約紋を通じてアンにも魔物が倒された事を知る。彼女は森の中で身体を起き上げ、予想以上の速度で追手が迫っている事に気付く。



「これは呑気に眠ってはいられないわね……行くわよ、木偶の坊」

『オアッ……』



アンは声をかけると、彼女の傍で座り込んでいた「ブラックゴーレム」が起き上がる。彼女の傍にはブラックゴーレムしか存在せず、他に魔物の姿は見えない。


ナイ達の予想ではアンが王都からムサシノ地方まで向かう際、ブラックゴーレムは彼女の旅の足手まといになると考えていた。実際にブラックゴーレムの動作は通常種のゴーレムよりは素早いが、それでも魔獣と比べると移動速度は遅い。


しかし、アンはブラックゴーレムを手放さずにここまで辿り着き、既に彼女はナイが子供の頃に暮らしていた村の近くまで辿り着いていた。驚異的な移動速度でアンはムサシノ地方へ迫り、恐らくは今日中には牙山へ辿り着ける手筈だった。



「もう私の味方はあんたしかいない……しっかりと守りなさい」

『ウオオッ!!』



ブラックゴーレムは雄たけびを上げると木々に留まっていた鳥たちが逃げ出し、その様子を見てアンは笑みを浮かべる。彼女の言葉は嘘ではなく、今のアンの傍にはブラックゴーレムしかいない。


王都を発つ際にアンは王国軍が飛行船で追いかけてくる事を予測し、飛行船が停まるであろう場所に自分が契約を交わした魔物達を配置してきた。そのせいでアンの傍にはブラックゴーレムしかおらず、他にもを含めれば2体しか従えていない。



(さあ、早く来なさい……私は)



王国の追手が迫っているにも関わらずにアンは余裕の笑みを浮かべ、そんな彼女見てブラックゴーレムは黙り込む。アンは空を見上げると、自分が眠る前に偵察に出したい魔物を探す。


アンが王都でレイラに追い詰められたとき、彼女を殺したのはアンではなく、牙山へ偵察に向かわせた魔物だった。この魔物はブラックゴーレムが現れるまではアンの従えた魔物の中では一番の強さを誇り、殺傷能力の高さならばブラックゴーレムをも上回る。


この2体の魔物を従えてアンは牙山へと向かい、彼女は王国軍が辿り着くのを待ち構える。アンはもう逃げるのを止め、この機会に彼女は自分を追ってきた王国軍を壊滅させ、たった一人で王国へ「反乱」を行おうと考えていた。




――彼女は子供の頃に読んだ絵本を思い返し、その絵本には「女王」なる存在が描かれていた。この女王は悪役として描かれていたが、女性が国の王として振舞っている事にアンは衝撃を受ける。


王国の歴史では女性が王になった事は一度もなく、必ず男性が王として選ばれていた。しかし、他国の中には女王となった人間も存在し、この世界で女王と呼ばれる存在が居なかったのは王国だけである。


女王という存在に憧れたアンは他国に憧れを抱いた。しかし、いくら憧れようと人間ではない種族が治める国に人間である自分が女王に選ばれるわけがない。そう考えたアンは人間の国で初めて自分が女性でありながら王になる事を目指す。





「今日、私はこの国の女王になるのね」





正攻法ではアンがどれだけ頑張ろうとこの国の女王にはなれない。それならば彼女は魔物使いという自分の才能を生かし、魔物という強大な存在を利用して彼女はこの国の王の座を掴もうと考えていた――







※区切りがいいのでここまでにします。遂に物語も最終局面に入りました……

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