最終章 《氷華と炎華の行方》
「へえ、これがクラーケンか……凄く大きいんですね」
「それにしてもなんでこんな場所にクラーケンがいるとは驚きですね。本当なら海に生息する生き物なんですけど……川を遡ってここまで来たのか、あるいは人間が連れてきて湖に解き放ったのかもしれません」
『むむうっ……まさか俺が武器を取りに行く間に倒されるとは、ちょっとつまらんぞ!!』
『うぷっ……気持ち悪い』
「だ、大丈夫ですか?」
ゴウカはクラーケンが現れた時に部屋に武器を忘れてしまい、取りに戻る間にクラーケンの討伐は終わっていた。マリンの方は船酔いで船の中で休んでいたので戦う事ができず、今も完全には回復していない。
ナイとリーナは狩猟に出向いていたのでクラーケンに気付けなかったが、その代わりに二人は食料を調達した後に森のなかで発見した倒木の話を伝える。その話を聞いた時に真っ先に反応したのはテンだった。
『大木が切り倒されていた!?それは本当かい?』
『この森も、ですか……』
『どうなってるんだ、いったい!?』
テン達は森の中で大木が切り倒されているという話を聞いて驚き、実は彼女達はアンを追う際中に山や森を通り過ぎる際、必ずと言っていいほど切り倒された樹木を確認しているという。
彼女達は見つけた倒木もナイ達が発見した物と同じく、鋭利な刃物で一撃で切り倒されていた。恐らくは大木の大きさから考えても相当な長さを誇るらしく、もしかしたら魔剣の類かもしれない。仮に魔剣ではなくても魔法金属製で作り上げられた武器でもなければ大木を一撃で切り倒すなど出来るはずがない。
(どうしてあの大木は噛み砕かれていたんだろう……まさか、あの大木を斬り倒したのはアンの仕業?でも、そんな事がありえるのかな……)
聖女騎士団はアンを追跡する際中に倒木を発見し、もしも大木を切り倒している人間の正体がアンだった場合、彼女は魔物使いだけではなく剣士としての一流の腕を持ち合わせている事になる。しかし、アンが大木を斬り倒せる程の腕を持つとは思えない。
実際にアンを目撃したアリシアによれば彼女は一流の武人とは到底思わず、アリシアとレイラが追いつめた時は本当に焦っている様子だった。しかし、レイラはそんな彼女を追いかけて逆に殺されていた。レイラを殺した人物がアンなのかは分からないが、少なくとも彼女の死の原因はアンである事に間違いない。
(レイラさん……双剣の使い方を良く教えてくれたな)
聖女騎士団のレイラは先代団長のジャンヌと同じく「双剣」の使い手であり、実はナイも彼女から双剣の基礎を教わってたりもする。ナイは旋斧と岩砕剣を同時に使って戦う事もあり、彼女から二刀流の戦法を教わっている。大剣と長剣の違いはあれど、レイアもナイも双剣の使い手でもあった。
(双剣か……そういえば亡くなった王妃様も炎華と氷華の使い手だったんだっけ?)
この国の王妃であるジャンヌは既に亡くなったが、彼女は氷華と炎華と呼ばれる二つの魔剣の使い手であり、その強さは当時は「王国最強の女剣士」とまで言われていた。実際に彼女は強く、若かりし頃のテンや他の聖女騎士団の面子も敵わなかった。
当時から大将軍を務めていた「ロラン」そして最強の冒険者として謳われていた「リョフ」この2名を含めて当時の王国では誰が一番強いのかと話題になっていたとナイはテンから聞かされていた。
『ロラン大将軍やリョフの野郎は強かったのは認めるけど、やっぱり一番凄いのは王妃様だね。あの人はなにしろ二つの魔剣を操れるぐらいだからね』
『それならナイ君とどっちがつよいのかな〜?』
『そんなの……王妃様に決まってるだろ。ナイが強いのは認めるけど、王妃様にはまだまだ敵わないね』
前に酔っ払ったテンが王妃の話をしてくれた事があり、彼女にとって王妃は実の親以上に大切な存在だった。彼女が死んだ今でもその気持ちに変わりはなく、聖女騎士団が一度解散した理由もテンが彼女の代役なんて務まるはずがないという思いから断ったほどである。
ジャンヌはナイと同じく二つの魔剣の使い手であるが、彼女の場合は相反する属性同士の魔剣を完璧に使いこなしていた。冷気を司る氷華と火炎を司る炎華を完璧に使いこなし、彼女は数多の強敵を屠って最強の戦士の称号を得たという。
(氷華と炎華か……あれ、そういえば今は何処にあるんだっけ?)
グマグ火山に出向く前に魔導士のマホは氷華と炎華の継承者を探すために行動していたはずだが、その肝心のマホは現在は倒れて意識が戻らず、氷華と炎華の行方はナイも知らない。
普通に考えれば二つの魔剣は王国に帰されたはずだが、もしかしたらマホの弟子達の誰かが預かっているのかもしれない。その辺の話を聞いてみようかとナイはガロとゴンザレスを探す。
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