最終章 《謎の敵》

「――何だろう、船の方向から凄い声が聞こえた様な気がしたけど」

「え?そうなの?僕は聞こえなかったけど……」



飛行船が着水している湖から離れた場所にナイとリーナは赴き、二人は狩猟に出向いていた。食料に関しては余裕はあるのだが、ずっと船に乗っていると身体が鈍るので狩猟に出た。


一応は飛行船内にも訓練場は存在するが、ナイの場合だと全力で戦う事ができなかった。飛行船に乗り込んだ人員の中でナイと対等に戦えるのはロランやゴウカぐらいであり、その他に彼とまともに戦えるのは数名しかいない。


ロランは大将軍という立場上、一番忙しいので訓練に付き合う事自体が難しい。ゴウカの場合は彼と戦闘になると全力で向かってくるため、下手をしたら船を壊しかねないので戦闘は禁止されていた。



(新型の飛行船の訓練場は頑丈に作られていたけど、旧型の飛行船だと本気で戦えないからな……)



新型の飛行船と違い、旧型の飛行船は耐久面に問題があって訓練場でナイは全力で戦えない。逆に言えばナイの力は飛行船に耐え切れない程に強い事を意味しており、こうして地上にいる間は身体が鈍らないように動かしておく。



「ナイ君、そろそろ戻ろうか。これぐらいで十分だよ」

「うん、そうだね」



ナイはリーナと共に背中に背負った籠に視線を向け、籠の中には森の中で採れた果物や茸や食べられる野草が入っていた。残念ながら野生動物や食用になる魔物は見つからなかったが、成果としては十分だった。



(これぐらい大きな森なら兎ぐらい見かけてもいいのにな……)



森の中を移動する際中、ナイは1匹も動物を見つけられなかった事に疑問を抱き、リーナと飛行船に帰還する途中も気配を探る。


気配感知や魔力感知の技能を発動させてナイは動物や魔物を探すが、特にそれらしき反応は感じられない。まるで森の中から植物以外の生物が逃げ出したように不自然さを感じた。



(いったいどうなってるんだ……ん?)



帰還の途中、ナイは遠目で奇妙な光景を目撃した。すぐにナイは自分が発見した物を確かめるために移動すると、リーナはナイの行動に驚いて慌てて後に続く。



「ナイ君?どうしたの?」

「あれは……」

「あれ?」



ナイの後に続いたリーナも遅れて彼の視線の先に存在する光景を目にすると、彼女は呆気に取られた。森の中に倒れている大木を発見し、しかもそれは一つや二つなどではなく、大量の樹木が切り倒されていた。


切り倒された倒木を見てナイは鋭い刃物のような物で一撃で切り裂かれている事に気付き、いったいどれほど鋭利な刃物なのかあまりにも見事な切断面だった。斧の類で力ずくで斬り倒したというよりは、刀身の長い刃物で切り裂いたように見える。



「何だこれ……いったい、誰がこんな事を」

「これ、凄いよ……こんな風に切るなんてきっと凄腕の剣士の仕業だよ!!もしかしたら魔剣を使ったのかも……」

「魔剣……」



切り倒された倒木を確認してリーナは魔剣を所有する剣士の仕業だと考えたが、ナイはどうしても違和感を抱く。確かにリーナの言う通りに腕利きの剣士の仕業なのかもしれないが、それにしてもどうしてこんな森の中で木々を切り倒していたのか気にかかる。



(この大木を斬った人……何者だろう?)



森の中で切り裂かれた大木を見てナイは疑問を抱き、何か手がかりになるような物はないのかと彼は探すと、この時に切り倒された倒木の一部が何かに嚙り付かれたような跡が残っている事に気付く。



「これは……」

「どうしたのナイ君?」

「ここを見て、何かが嚙り付いたように見えない?」

「あれ……本当だ。でも、魔獣が噛みついたのかな?でも、どうしてそんな事を……」



ナイとリーナが倒木を確認すると、嚙り付いたというよりは噛み砕いたという表現が正しく、理由は不明だが魔獣か何かが倒れた倒木を噛み砕いた痕跡が残っていた。


何者かに切り倒された大木、その大木に魔獣のように鋭い牙を持つ生物が噛み砕いた跡、色々な謎を残しながら他に手がかりは残っておらず、ナイ達は飛行船に引き返してこの事を報告する――






――飛行船に戻ると聖女騎士団が既に合流し、湖に潜んでいたクラーケンを倒した事を知ったナイとリーナは驚く。二人が戻って来た時には倒したクラーケンを陸地に引き上げ、焼いて食べようとしていた。



「美味い!!これがか!!」

「意外といけますわね!!」

「うっ……あたしは遠慮しておくよ」

「もう、テンさん!!好き嫌いは駄目だよ!!」

「そうだぞ!!好き嫌いせずに食べろといつも言ってただろ!!」

「そ、そうはいってもね……」



皆が焼いたクラーケンを食する中、テンだけはクラーケンの見た目にびびって食事が進まない。そんな彼女にモモとルナが無理やりにでも食べさせようと焼いた触手を手に持って近付こうとする。



「ほら、一口食べればすぐに気に入るよ!!」

「食べろ食べろ〜!!」

「や、止めてくれ!!あたしが悪かった、今度からはもっと優しくするからさ!!」

『あはははっ!!』



テンはモモとルナに追い掛け回され、そんな光景を見ていた者達は笑い声をあげる。

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