最終章 《湖の主》

「女将さん!!ここに居たのね!!」

「あ〜女将さんだ!!」

「なっ!?あ、あんた達……どうしてここに!?」

「彼女達はイリア魔導士の助手だ。魔導士がどうしてもというので連れてくるのを許可した」



甲板に立っていたロランとテンの元にヒナとモモが駆けつけ、彼女達が居る事にテンは心底驚く。前にも二人が乗り込んだ事はあったが、あの時と違って二人とも今回は正式許可を貰って乗り合わせていた。



「あんたらねえ、この船が何処に向かうのか分かってるのかい!?竜種が住んでいるかもしれない場所に向かうんだよ!!」

「でも、イリアさんがいいって……」

「そ、そうね。それに今回はイリアさんがどうしても私達の力が必要だっていうから……」

「テン、彼女達を責めるな。二人を連れてきた責任はイリア魔導士にある」

「たくっ、大将軍は女子供には甘いんだから……しょうがないね、足手まといになるようならすぐに船から下ろすからね!!」



二人に対してテンは叱りつけようとしたが、意外な事にロランが二人を庇う。ロランは非戦闘員の女性や子供に対しては優しく、それに二人を連れて行きたいと言い出したのはイリアなので責任があるとすれば彼女だった。


ちなみにイリアは船内で実験を行い、今回の彼女は回復薬の生産に集中して貰っている。何しろ相手が竜種である以上、回復手段を用意するのは当然の話であり、彼女は戦闘中でも使いやすい「仙薬」の開発に取り組む。



「ロラン大将軍、この船は具体的に何時頃にムサシノ地方に辿り着けるんだい?」

「アルト王子の計算によれば明日の昼には辿り着く。それまでに身体を休めて長旅の疲れを癒しておけ」

「明日の昼かい……こっちはここまで移動するのに苦労したんだけどね」



テン達はここまでの道中の苦労を思い返し、改めて飛行船の凄さを思い知る。馬で地上を移動する時は馬が疲れすぎないように一定の速度を保ち、夜を迎えると魔物や賊に襲われないように見張り役を用意して交代制で身体を休める。一番最悪なのは雨が降った時であり、身体を濡らさないように雨宿りできる場所を探し出し、身体を冷やして病気にならないように気を付ける必要もあった。


飛行船ならば移動の際中も体力を使わず、馬よりも何倍もの速度で移動する事ができる。雨や夜を迎えたとしても船内ならば安心して身体を休ませ、人数が多いので見張り役もそれほど苦にはならない。自分達のこれまでの苦労が何だったかと思うとテンは泣けてくる。



「はあっ……なら、お言葉に甘えて休ませてもらうよ」

「あ、テンさん。もしも時間を持て余して暇だったら食材の調達を手伝ってもらえる?まだ食料に余裕はあるんだけど、新鮮な食材を手に入れたなら美味しい料理もできるし……」

「新鮮な食材ね……」



ヒナの言葉にテンは湖に視線を向け、釣りでもして魚でも捕まえろと助言しようとした時、突如として水面に波紋が広がる。船が僅かに揺れ動き、甲板に居た者達は湖に落ちない様に慌てふためく。



「どうした!?何事だ!?」

「わ、分かりません!!急に湖に波が……」

「おいおい、ここは海じゃないんだよ!?何で急にこんな……」

『おおっ!!この場所、思い出したぞ!!』



甲板にゴウカの声が響き渡り、全員が彼に視線を向けるとゴウカは湖を見下ろしていた。彼はかつてこの湖とよく似た場所に来た事があるのを思い出し、その時はとある魔物の討伐のために訪れた事を語った。



『この湖、前に俺が依頼を引き受けて訪れた場所とそっくりだ!!あの時は確かイカみたいな奴を倒したな!!』

「イ、イカ!?何だいそりゃっ!?」

「イカ、魔物……まさか!?」

「ねえねえ、あれを見て!!」



ゴウカの言葉にロランとテンは驚くと、この時にモモが湖の中心を指差す。彼女が指差した方向に視線を向けると、そこには水の中から触手の様な物が出現していた。



「な、何だいあれは!?」

「あれってもしかして……」

「何処かで見たような……あ、思い出した!!あれ、さんの足だよ!!」

『タコッ!?』



モモの言葉に甲板に立っている全員が驚愕の声を上げ、やがて水面に巨大なタコを想像させる魔物が出現する。



『ジュルルルルッ!!』



奇怪な鳴き声を上げながら姿を現したのは巨大タコの姿をしたであり、以前にゴウカが倒したクラーケンはイカのような姿をしていたが、この湖に生息するクラーケンはタコと瓜二つの姿をしていた。


この世界に生息するクラーケンは巨大イカのような姿をしているのだが、今回現れたのはクラーケンの亜種だった。巨大タコは湖に姿を現すと、自分の縄張りに入ってきた飛行船の姿を見て警戒心を露にする。



『ジュルルルッ……!!』

「ちょ、ちょっと待って……あのクラーケンこっちを見てない!?」

「まさか……この船を魔物と勘違いしているのか?」



フライングシャーク号は全体に鮫の様な絵柄が書き込まれており、そのせいでタコ型のクラーケンは自分の縄張りに巨大な鮫が入り込んできたと勘違いして怒りを露わにした。



※今日はあと1話投稿します。

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