最終章 《聖女騎士団との合流》
――翌日、聖女騎士団は森の中で夜営を行っていると、朝早くにルナが眠っているテンの身体の上に乗り込む。テンは安らかに眠っている時に彼女が上に乗ってきたせいで苦し気な声を上げた。
「テン、起きろ!!」
「ぐえっ!?な、何だい……こんな時間に?」
「寝ぼけてる場合じゃない、あれを見ろ!!」
ルナに対して文句を言おうとしたテンだったが、彼女が空を指差して騒ぎ立てる。ルナの大声に他の者たちも何事だと思って顔を上げると、上空を見上げて驚いた声を上げる。
「な、何だいあれは!?」
「魔物か!?」
「空を飛ぶ鮫!?」
「いや、あれは……飛行船だ!!しかもあの船は王妃様の!?」
テン達は上空を見上げると飛行船フライングシャーク号が浮かんでいる事に気付き、飛行船は彼女達に気付いていないのか近くの湖に向けて移動を行う。
旧式の飛行船が空を飛んでいる事にテン達は驚いたが、慌てて彼女達は準備を整えて飛行船の後を追う。幸いにも飛行船はテン達が夜を過ごしていた森の中にある湖に着水し、すぐに合流する事ができた。
「お〜い!!誰かいるかい!!」
「その声は……テンか!!」
湖に到着したテンは大声を上げると、飛行船の甲板に立っていたロランが気付く。彼はテンが率いる聖女騎士団の姿を発見すると、すぐに船を陸側に寄せて彼女達を迎え入れる。
「テン、無事だったか」
「ロラン大将軍、これはどうなってるんだい?なんで今更、この飛行船を……」
「こちらでも色々と事情があってな……急いでムサシノへ向かう事になった」
「ムサシノ!?どうしてムサシノなんかに……」
ロランからテンは聖女騎士団が離れた後に王都で起きた出来事を話して貰い、彼女達が追っていたアンがムサシノ地方に封じられた妖刀の回収を行うために向かっている可能性が高い事を知る。
今回の飛行船に乗り合わせた部隊はアンよりも先にムサシノ地方に辿り着き、牙山に生息する「牙竜」と呼ばれる竜種を討伐してアンよりも先に妖刀の回収を行うために結成された。
もしも妖刀がアンの手に渡ればどのように悪用されるかも分からず、一刻も早くムサシノ地方へ向かうために旧式の飛行船を使用した事をテンは知ると、彼女は懐かしそうに旧式の飛行船を伺う。
「なるほど、そういう事だったのかい。それにしてもまたこれに乗る日が来るなんてね……」
「二代目の飛行船と比べると色々と不都合な点は多いが、それでも現状ではこの飛行船よりも早く動く乗り物は存在しないからな。それでお前達の方はどうだった?例の魔物使いの手掛かりは掴めたのか?」
「ああ、それなんだけどね……」
ロランの質問にテンはこれまでに彼女達が追ってきたアンの手掛かりを報告する。一応は各街にてアンらしき女性を見かけたという報告はあったが、彼女は手配書が街に送られる前に行動していたらしく、それで何処の街の兵士達も彼女を捕まえる事ができなかった。
どうやらアンは馬よりも早い騎獣を従えているらしく、聖女騎士団は彼女の後を追いつけなかった。そんな時に飛行船を見かけ、今に至った事を話す。
「そうか……アンを見つける事はできなかったか」
「面目ないね……アンの奴が馬よりも早い魔獣を操る事をもっと早く思いついていれば追いつけたかもしれないのに」
「仕方あるまい。ここから先は聖女騎士団も我々と共に向かってもらうぞ、偶然とはいえ、ここでお前達と合流できたのは運が良かった」
「ムサシノ地方か……」
ロランの推測ではアンがムサシノ地方に向けて移動している可能性が高く、彼女がもしもムサシノ地方に封じられている妖刀を狙っているとしたら見過ごす事はできない。
飛行船の移動速度ならばアンよりも先にムサシノ地方に辿り着けると思われるが、アンがどのような騎獣を従えているのかは分からず、決して油断はできない。それでも飛行船に勝る移動速度を誇る騎獣がいるとは思えず、急げばまだ彼女より先にムサシノ地方に辿り着けるはずだった。
「お前達もここまでの長旅で疲れているだろう。今はゆっくりと休んで体力を回復させておけ、この調子ならば明日には目的地に辿り着く」
「明日!?そんなに早く到着できるのかい?」
「グマグ火山で良質な火属性の魔石を大量に手に入れたお陰だ。魔石の質が良いお陰で飛行船の移動速度を高める事ができたらしい」
飛行船の動力源は火竜の経験石であり、この経験石に火属性の魔石から吸収した魔力を送り込む事で飛行船を動かす事ができる。しかもグマグ火山で回収した魔石は普通の魔石よりも質が高く、そのお陰で旧式の飛行船でも予定よりも大幅に早く移動する事ができた。
この調子ならば明日にはムサシノ地方に辿り着けるが、今日の所は森の中の湖で飛行船の調整を行い、明日の朝に出発する予定だとロランは告げる。
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