最終章 《出発の日》

――時は現代に戻り、飛行船が出発する日を迎えた。旧式の飛行船の調整が終了すると全員が乗り込み、ここから先は王国各地に存在する湖を転々と移動して目的地へと向かう。


旧式の飛行船は地上には着地する事ができず、湖や大きな川などにしか降りる事ができない。また、着陸した後は定期的に風属性の魔石を取り換えなければならず、二代目の飛行船と比べると進行速度は遅くなる。


それでも現在動かせる乗り物の中で飛行船が一番移動速度が速く、大勢の人間を連れていく事ができる事に変わりはない。全員が準備を終えて乗り込むと、操縦席にてアルトは緊張した様子で舵を取る。



「ふうっ……」

「王子、時間を迎えましたぜ」

「分かっている、ちょっと集中させてくれ」



出発の時刻を迎えるとアルトは緊張をほぐすために頬を叩く。そして彼はハマーンの弟子達に船を動かす様に指示を出した。



「フライングシャーク号、発進!!」

『発進!!』



旧式の飛行船の正式名称は「フライングシャーク号」この名前は亡き王妃が付けた。名前の通りに空を飛ぶ鮫の如く、船体には鮫の絵が描かれている。


アルトが合図を出すと飛行船は動き出し、まずは上空へ向けて浮上を開始した。その様子を地上の者達は見送り、十分な高度まで上昇すると飛行船の後部に搭載された噴射機から火属性の魔力が放出された。



「衝撃に備えるんだ!!」

『おうっ!!』



飛行船が動き出すと船内に衝撃が加わり、凄まじい速度で目的地へ移動を開始した――






――同時刻、聖女騎士団はアンの行方を追って街を転々としてきたが、ここで彼女達は森の中で奇妙な物を発見した。彼女達が発見したのは鋭い刃物のような物で切り裂かれた樹木と、まるで虫か何かに食い荒らされたような跡が残っていた。



「何だいこれは……?」

「斧か何かで切られたにしては……切断面が綺麗すぎるな」

「それに切られた木が……食い荒らされている?」



聖女騎士団は見事な太刀筋で切り裂かれた切り株と、巨大な虫か何かに食い荒らされた様な倒木を確認して疑問を抱く。まるで何者かが大木を鋭い刃物で切り裂き、その後に魔物か何かが切り倒した気を食い荒らしたような感じだった。


優れた武芸者であるテン達は切り株の切断面を一目見ただけで、大木が一撃で切り倒された事を悟る。これほど見事に大木を切れるとしたら切った人間は相当な腕を誇る剣士であり、もしかした魔剣の類で切り倒した可能性もある。



「テン、これは誰が切ったんだ!?」

「知らないよ、あたしに聞かれても……けど、ここまで見事に大木を切れるなんて相当な腕力を誇るね」

「だろうな……恐らく、相当な達人だろう」

「しかし、何者の仕業だ?まさかアンがやった……とは考えられないな」



アンの行方を追う途中にテン達は斬り倒された倒木を発見したが、この大木を斬り倒したのがアンの仕業だとは考えにくい。彼女が魔剣の類を所持していてそれを利用して大木を斬り倒したとしても、どんなに優れた魔剣を持っていても大木を一撃で綺麗に切り倒せるとは考えにくい。


気になる事があるとすれば切り倒した大木を何者かが食い荒らした事も気にかかり、テンは嫌な予感を抱く。食い荒らされた大木を見て彼女は野生の魔物の仕業とは思えず、冷や汗が止まらない。



(いったい何がどうなってるんだい……くそっ)



テンのこの時の予想は外れておらず、この大木を食い荒らした存在は後に彼女達を追い詰める程に恐ろしい相手だった――






※短いですが、区切りがいいのでここまでにしておきます。次の話から本格的に物語が進むと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る