最終章 《獣の王》
――巻物を焼いた後、アンは眠りにつくと昔の夢を見た。彼女が巻物に記された「獣の王」が根城にしている岩山に初めて訪れた時であり、当時の彼女は複数の魔物を従えていた。
『何よ、ここは……骨だらけじゃない』
『ギギィッ……』
『グゥウッ……』
アンは多数のホブゴブリンとコボルト亜種を従え、牙のような歪な形をした岩山に赴く。最初にアンが岩山に辿り着いて知ったのは山の周りに大量の動物や魔物の骨が転がっている事を知る。
骨の種類は様々で中には大型の魔物の骨も存在し、大分年月が経過している様子だった。この場所でどれだけの数の魔物が殺されたのかは不明だが、興味を抱いたアンは岩山に近付く。
『どうしたのよ、ちゃんと付いてきなさい』
『グギィッ……』
『ガウッ……』
この時にアンが連れていた魔物達は岩山に近付く事を恐れ、アンが命令を与えると渋々と従う。そんな魔物達の反応にアンは違和感を覚えながらも、この場所の秘密を解き明かすために彼女は岩山に近付く。
(いったい何なのかしら、ここは……)
アンは岩山を調べるために歩いていると、不意に振動を感じ取る。最初は地震かと思ったが、遠くの方から唸り声のような音を耳にした。
(この音は……いびき?)
何処からか生き物の声が聞こえてきたアンは周囲を見渡し、何処かに眠っている生き物が居るのかと探す。だが、この時に彼女に従っていた魔物達は怯え、身体を震わせていた。
『グギィイイ……!!』
『グゥウッ……!!』
『……何をそんなに騒いでいるのよ』
自分の従えた魔物達の怯えようにアンは疑問を抱き、彼女が連れているホブゴブリンもコボルト亜種もこの地方に生息する魔物と比べたら力が強く、仮に赤毛熊など魔物が現れたとしても十分に対処できた。
アンに従う魔物は野生の魔物よりも成長力が高まり、今ここに赤毛熊が現れたとしても脅威にはならない。それにも関わらずに魔物達は何かに怯えるように身体を震わせ、その反応にアンは不安を抱く。
『何に怯えているの?この近くに何かがいるの?何処にいるのよ』
『グギィッ……!?』
『早く教えなさい』
魔物達はどうやらアンが気づいていない存在を感知したらしく、彼女の命令を受けたホブゴブリンの1匹が恐怖の表情を浮かべながら指差す。アンは疑問を抱きながらも指差された方向に視線を向けると、そこには岩山があるだけだった。
『何よ、何もいないじゃない』
『グギィイッ……!!』
『……岩壁?』
岩山を指し示したホブゴブリンにアンは疑問を抱くと、ホブゴブリンはどうやら岩山その物ではなく、指差した岩壁自体を示している事に気付く。
アンは疑問を抱きながらも彼女は岩壁に視線を向けると、ある違和感を抱く。ホブゴブリンが指差した岩壁は妙に盛り上がっており、色合いが微妙に異なる。指摘されなければ気付けなかったが、アンは即座に岩壁の正体が岩山に張り付いた「生物」だと知る。
(あれは……!?)
岩壁の正体が岩山に張り付いた巨大な生き物だとアンが気づいた瞬間、突如として岩山が震え始め、やがて蜥蜴を想像させる巨大な目玉が現れてアンを睨みつける。
目玉の正体は岩壁に擬態した大型の生物の瞳だと判明し、それを見た瞬間にアンは今まで体験したことがない恐怖を抱く。彼女は生まれて初めて魔物を恐ろしいと思い、気づいた時には身体が勝手に動いていた。
『私を守りなさい!!』
『グギィッ!?』
『ガアアッ!?』
走りながらアンは魔物達に命令を与えると、ホブゴブリンとコボルト亜種の身体に紋様が浮き上がり、契約紋が発動して強制的にアンの命令に従わされる。アンと契約を交わした魔物達は彼女を守るために動き出すと、岩壁に擬態していた生物はそれを見て咆哮を放つ。
――グガァアアアアアアッ……!!
アンが今までに聞いた事がない恐ろしい咆哮が岩山に響き渡り、彼女はこの時に振り返りもせずに全力疾走でその場を離れた。後方からアンが従っていた魔物達の悲鳴が響き渡り、彼女は命からがら当時従えていた魔物を犠牲にして生き延びた――
――岩山から奇跡的にアンは逃れた後、彼女は逃げるようにその地を離れた。今までどんな魔物でも自分に従えさせることができると考えていたアンだが、生まれて初めて彼女は自分でもどうしようもない存在を目の当たりにした気がした。
赤毛熊程度の相手ならば敵にもならない戦力を誇る魔物達を全て失い、彼女はしばらくの間は洞窟の中に身を隠していた。何日も洞窟の外に出る事ができず、もしも岩山の魔物が追いかけてきたらと考えると怖くて外に出れなかった。
結局はアンが見つかった魔物が追いかけてくる事はなかったが、彼女は恐怖のあまりに二度と岩山には近づかず、逃げるようにその地を立ち去った――
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