最終章 《三つ目の巻物》

――十数年前、自由を手に入れたアンは魔物を従えて旅に出た。そして彼女が辿り着いた先が王国の辺境の地、かつては和国の領地であった「ムサシノ地方」だった。このムサシノ地方にアンは辿り着いた時、山の奥に存在する廃村を発見した。


この廃村こそが「シノビ一族」が管理していたであり、魔物に滅ぼされた後にアンはこの場所に偶然にも辿り着く。当時はまだ魔物に滅ぼされたばかりで里に暮らしていた住民の死体が散らばっており、彼女は「コボルト亜種」を従えた状態で訪れる。



『こんな山奥に村があるなんて……何か見つけたらすぐに教えなさい』

『ガアッ……』



コボルト亜種を連れたアンは村の中を探索し、金目になりそうな物を探す。この時に彼女は大きな屋敷を発見し、中に入るとコボルト亜種が何かを感じ取ったのか床板を引き剥がす。



『ガアアッ!!』

『これは……地下室?』



床板を引き剥がすと地下に繋がる階段が現れ、それを確認したアンは階段を降りると地下室に辿り着く。どうやら書庫らしく、その場所には代々のシノビ一族の長が書き残した歴史書が置かれていた。


翻訳の技能のお陰でアンは和国の文字も解読する事ができたため、彼女はこの隠れ里がシノビ一族が管理している事、そして彼等が和国の子孫だと知る。



『和国……そういえば大昔、そんな国があったと聞いた事はあるわね。という事はこの村は和国の子孫が作った村?』



和国の事はアンも父親から昔聞かされた事があり、彼によると大昔に魔物に滅ぼされた国だと聞かされていた。実在した国なのは確かだが、その存在を知る人間は今の時代にはあまりいない。


代々のシノビ一族の長が書き残した歴史書を読み解き、この時に彼女は歴史書の中に「妖刀」の記述を発見する。妖刀とは現代でいう所の「魔剣」に当たる武器であり、このムサシノ地方の何処かに和国が存在した時代に作り出された大量の妖刀が隠されている事を知る。



『妖刀ね……興味はないわ』



当時のアンは妖刀がこの地に封じられていると知っても興味は湧かず、彼女は歴史書を粗方読み終えると立ち去ろうとした。しかし、この時に彼女は歴史書ではない巻物を発見した。



『これは……暗号の解読方法?』



アンが手に入れた巻物にはシノビ一族に代々伝わる暗号の解き方が記されており、悩んだ末にアンはこの巻物だけは持って帰る事にした――






――時は現代に戻り、アンは隠れ里で見つけた巻物と王城から盗み出した二つの巻物を取り出す。この二つの巻物にはそれぞれ暗号が記され、その暗号を重ねる事で文章が出来上がる。その文章の意味を読み解けるのはシノビ一族だけだったが、アンは隠れ里から暗号文の解き方が記された巻物を偶然にも持っていた。



「まさかこの巻物を使う日がくるなんてね……」



アン自身もこんな巻物を持っていて何の役に立つかと思っていたが、折角手に入れた代物なので今まで肌身離さず持ち合わせていた。彼女は3つの巻物を並べて翻訳の技能で文章を読み解く。



「獣の王の住処に妖を封じる……なるほど、そういう意味ね」



文章を読み解いたアンはかつて自分が拠点にしていたムサシノ地方の事を思い出し、彼女はムサシノ地方の地理は把握していた。そして文章に記された「獣の王」の存在にも心当たりがあり、彼女は冷や汗を流す。


どんな魔物も従えてきたアンだったが、彼女は一度だけ仲間にする事を失敗した魔物が存在した。その魔物は牙のような形をした岩山を根城としており、最初にその魔物の姿を見た瞬間、アンは初めて魔物に対して恐怖という感情を抱いた。


これまでにアンはどんなに恐ろしい見た目をした魔獣を相手にしても恐れる事はなかった。彼女は言葉が通じる魔物ならば心を通わせ、自分の配下にする事ができると思った。しかし、その生き物を初めて目にした時、彼女は初めて魔物に対して恐怖を抱く。


あの時はアンは従えていた魔物を犠牲にして逃げ切る事に成功したが、もしも彼女の判断が遅ければ間違いなく殺されていた。それほどまでに危険な相手であり、当時のアンではどうしようもない相手だった。



「まさかあれが住んでいる岩山に妖刀が封じられているなんてね……」



アンは3つの巻物を見つめて眉をしかめ、何百年もシノビ一族が隠していた妖刀の在り処を知る事ができた。しかし、その場所に行くには彼女は唯一自分の配下に従えられなかった存在が居る。



(あれを従えるのは骨が折れるわね……けど、時間はないわ)



自分が王城に忍び込み、追手が派遣されている事はアンも予想していた。この国に滞在できる時間は限られている事を悟ったアンは、もう一度ムサシノ地方に赴き、かつて自分が配下にできなかった存在と戦う時が来たと覚悟を決める。



「何が獣の王よ……私は王を統べるよ」



机の上に置かれた巻物を手にしたアンは部屋の中の暖炉に視線を向け、躊躇せずに彼女は暖炉の中に巻物を放り込む。もう彼女にとって用済みの品物であり、暖炉の中で巻物は燃えていく――

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